凝固異常症治療のための新規製剤の登場に際して、患者・家族が留意すべき点。
2024年4月24日
血友病をはじめとする凝固異常症治療のための製剤は、今でも進歩を続けています。1980年代においては、ヒト
血漿由来の非加熱凝固因子製剤によるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症が、世界の血友病患者に多くの死者
をも含む深刻な被害をもたらしました。この出来事を大きな教訓とし、製薬企業も、行政も、医療者も、そして
私たち患者・家族(以下、患者)も、それまで以上に製剤の安全性という部分に重きを置き、注意を払うように
なりました。
以来、約40年の歴史の中で、加熱凝固因子製剤、ヒト血漿に基づかない遺伝子組換え製剤、遺伝子組換え製剤の
中でも半減期延長型製剤、von Willebrand因子非依存型製剤、あるいはバイスペシフィック抗体などの非凝固因
子製剤というように、異なる方向から製剤の開発が進められ、実用化されています。これら新規製剤の登場にあ
たっては、むしろその効能・効果以上に、長期継続投与における安全性という観点が重視されてきました。この
ようにして市場に現われ、私たちが使うことになる製剤に関しては、基本的に綿密な安全対策が施されているこ
とは間違いありません。
しかし、患者の生命に関わる凝固因子製剤とは、開発に巨額の経費を要する高価な〝商品〟であることも真実で
あり、それらの多くは巨大なグローバル企業によって供給されています。私たち日本の患者もまた、逆らいがた
くその渦の中に巻き込まれていることになります。新規製剤が登場する時、極端に言えばそれは、新しいカップ
麺や新しいチョコレートや新しい自動車が発売されることと本質的には何も変わりません。ただし、一般的な商
品ならば、そこには売り手であるメーカーと買い手である消費者との関係しかありませんが、凝固因子製剤のよ
うな医薬品の場合は、有効性・安全性を評価して承認を与える国や、投薬を実際に選定・決定する医療者も介在
します。
新規製剤に関して、当然ながら企業は、因子活性が高い、体内での代謝時間が長い、インヒビターを誘発しにく
い、保存しやすい、等々、その利点・長所を強調します。そして、それらの大前提として安全性の確認――有害
事象のチェック――が必要です。私たち患者が新規製剤の出現を知る時、どうしてもその利点・長所に惹きつけ
られます。自分が現在使っている製剤に比べて新規製剤が優れていると感じられる時、わたしたちは自然に〝使
ってみたい〟と考えるかもしれません。
現在、企業が患者に対して直接に医薬品に関して働きかけを行なうことは認められていないので、患者に新規製
剤を〝売り込む〟というような事態は起きないはずです。企業は、たとえばプレスリリースというような形で製
剤の情報を発信します。その情報は、ウェブ上の報道サイト、あるいは医療情報サイトなどを通じて拡散され、
〝間接的〟に患者に届くことになります。これらは必然的に製剤の利点・長所が打ち出されているため、患者に
伝わりやすいものの、しかし、細かいデータはしばしば含まれません。詳細な学術的情報については――企業サ
イトを掘り進めば公開されており、また、PMDA(医薬品医療機器総合機構)など公的情報を提供しているサイ
トを参照すれば見ることが可能とはいえ――患者にとって接しにくいものですし、また、容易に理解し得る内容
でもありません。
これからも多様な新規製剤が開発されることでしょうし、また患者の誰しも、より良い製剤の登場に期待する想
いは大きいものと思います。しかしながら、実際に新規製剤を選択・変更するにあたっては、企業の発するデー
タにとどまらず、それに加えて、もちろん主治医や薬剤師の説明を良く聞くとともに、学会や患者会をも含めた
有効な情報源を活用し、これらに基づき出来る限り確実な判断を行なうべく努めていただきたいと思います。私
たち全国ネットワークとしても、そのような観点に基づき、皆様への情報提供を続けて行きたいと考えています。
2024年4月24日
一般社団法人 ヘモフィリア友の会全国ネットワーク