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ヘムライブラ製剤の中に発見された微粒子について【まとめ】

2020年7月1日

2020年7月1日

「ヘムライブラⓇ皮下注」に含有されていた微粒子(シリコン)に関して

一般社団法人 ヘモフィリア友の会全国ネットワーク
理事長 松本剛史
 

 中外製薬株式会社ホームページに2019年10月21日付で掲載された『「ヘムライブラⓇ皮下注」をお使いの方へ』における不分明な部分に関して、本ネットワークは同社あてに質問を送付し、2020年2月11日に担当者との面談(回答及び説明)の機会を持ちました。その内容及び、後日(5月20日)同社からの追加情報を取りまとめ、血友病患者、家族の皆様にお報せします。
 

【質問】
 中外製薬株式会社ホームページ掲載の2019年10月21日付『「ヘムライブラⓇ皮下注」をお使いの方へ』の中では、使用者への案内が遅れたことについてお詫びが記されていますが、ヘムライブラ内で発見された微粒子の存在自体に関しては、お詫びとしては触れられていません。これは、この微粒子の存在は、薬事上、承認された規格内にあり、従って問題ではないとの御社の見解に基づいていることを意味するのでしょうか。また、欧米ならびに日本の規制当局は、そのように承認・同意しているということなのでしょうか。
【回答】
 ごく微量のシリコンが薬剤中へ含まれることは、想定の範囲内です。微粒子は、製造工程でシリコン製部材から溶出したと見られるシリコン油滴と、薬効成分であるエミシズマブ蛋白が複合体を形成しています。今回は、目視で確認できる微粒子を認めたため、当局へ報告を行い、微粒子の存在は製剤の安全性または有効性に影響がなく、リスクとベネフィットに変化はないとの判断について、当局の理解を得ております。
 

【質問】
 同文書において、この微粒子は、シリコン=PDMS(ポリジメチルシロキサン)と有効成分由来のたんぱく質とによって構成されているとされていますが、PDMS(ポリジメチルシロキサン)の摂取が安全上問題ない量である根拠として、主に経口摂取のデータが示されています。これらのエビデンスが、皮下注射による投与の場合にも敷衍《ふえん》可能であることの根拠について、詳しくご説明下さい。
【回答】
 シリコンは、経口投与の場合、糞便中への排泄は80%程度で、20%は体内に吸収されます。経口投与での安全とされている範囲の上限量が皮下投与での安全な上限量の10倍量と過程した場合でも、シリコンの曝露量としては、ヘムライブラが体内(皮下)投与であることを考慮したうえで、問題ないレベルという見解です。皮下投与された微粒子は、数十〜数百μm程度の大きさであれば、生体内では異物としてマクロファージの貪食《どんしょく》によって処理されると考えられます。そのため、臨床試験実施時からヘムライブラ内に微粒子が含まれていたと考えられているものの、安全性上問題がなかったと捉えています。
 

【質問】
 同じく同文書において、PDMSは「医薬品のみならず、シリンジなどの医療機器でも広く使用される物質」と説明されています。であるならば、御社においては、本製剤同様の抗体医薬品等を他にも製造しているものと思いますが、その過程においては、今回のような事態は見られていないのでしょうか。なかったとすれば、本製剤に限って発生した原因は何でしょうか。あるいは、他にも同様の事態が発生していた前例があるならば、それについてはどのような再発防止策が打たれ、本製剤に関しては、なぜその事態が繰り返されたのでしょうか、お示し下さい。
【回答】
 他剤でも微粒子の発生は起こっている事象であり、今のところ根本的な解決策はありません。今回問題となったのは、製剤開発時では検出されなかった微粒子が目視されたからです。早期の検出が困難であった理由として、本微粒子の特性として色が半透明であること、サイズが目視できるかできないか程度に小さいこと、数が少ないこと、発生確率が低いことが考えられます。  
【追加】
 現在 、ヘムライブラの微粒子低減に向け、製造工程におけるシリコン源の精査や原材料の見直し等のシリコン低減への取り組み、微粒子発生機構の解明等、考え得る改善策を検討・実施しております。微粒子発生の原因究明と対応策を鋭意継続していく一方で、検討内容が複雑かつ多岐に渡ること、また効果の確認に数年単位の時間を要することから、現時点において未だ有効な改善策を見いだせていない状況です。
 

【質問】
 その後、本製剤の製造過程でPDMS(ポリジメチルシロキサン)が存在するに至った原因は明確に判明したのでしょうか。また、本物質の存在が――安全性の問題とは別個に――あくまでも仕様外の現象であったとしたら、その解消のため既に採られた対策の有無、成果、あるいは今後取られる対策の有無、見通しに関してご説明下さい。また、そのリスクが既に排除されたのであれば、情報提供の予定はあるのか、お示し下さい。
【回答】
 シリコン製部材は一般的な医薬品製造の分野で広く使用されていますが、原薬の製造工程で接触するシリコン製ホースがヘムライブラ製剤における主要なシリコン源であると推測しました。対策として、当該ホースを交換するとともに、これ以外でも技術的に可能な限り製造工程でシリコン製部材を使用しないよう追加で変更の予定です。PDMSとタンパク質とで構成された微粒子は、原薬をバイアルに充てんした製剤工程を経て製品化され、製剤の保管後に発現してきたことが否定できません。そのため、原薬の製造工程変更の結果が製剤中の微粒子低減に至るか否かをきちんと示せるのは、その製剤を長期間保管しその結果を確認できる数年先になります。
 

【質問】
 血友病コミュニティは、世界血友病連盟(WFH)に代表されるように、患者と専門家が密に連携をとりながら、血友病を始めとする先天性凝固異常症患者の療養環境向上に取り組んでいます。本邦においても、当ネットワークは、各患者会や学会ならびに行政当局と連携しながら活動しており、薬機法制で予測されている医師・患者関係のみを前提とすると、むしろ患者の療養環境に混乱を生じさせる可能性もあります。今後、御社と血友病コミュニティとの関係において、何らか独自の方向性を検討する計画があるか、お知らせ下さい。
【回答】
 今後は、血友病コミュニティと密接にコミュニケーションをとっていきたいと考えます。中外製薬が患者団体から要望を受け、要望の範囲内で情報共有することについては、問題ないことを【ネットワーク注:厚生労働省に】確認しています。
【追加】
 中外製薬は、微粒子低減に向けた対応策に引き続き取り組みます。
 


本ネットワークの見解

 今回の「ヘムライブラ製剤の中に微粒子が発見されたこと」に関して、私たちは2019年10月時点において多くの疑問や不足を感じていました。それらの諸点は、2月の中外製薬との面談、5月の同社追加情報を踏まえても、必ずしも十分に解消されたとは言えません。たとえば、微粒子発現の原因は未だ不明のままです(主なシリコン源と目された製造工程におけるホースの変更は、成果を発揮していない)。

 しかしながら、ロシュ・中外製薬による「当該微粒子の存在については、製剤の安全性および有効性に影響がなく、リスクとベネフィットのバランスに変化はない」との判断については、各国規制当局の理解を得ているとのことです。
 本ネットワークは、今後とも、中外製薬及び厚労省に対し、このような患者の不安につながる事象が起きることのないよう求め、仮にそれが発生してしまった場合には、患者会に対する迅速かつ正確な情報提供を行なうことを強く要請するとともに、その内容を皆様に適切に伝えることに努めます。


【参考】
ヘムライブラをお使いになる方へ

 
「ヘムライブラ皮下注」をお使いの方へ