【重要】ヘムライブラ製剤の中に微粒子が発見されたことについて
2019年10月16日
10月10日、中外製薬よりヘモフィリア友の会全国ネットワークに対して、〝本年3月、ヘムライブラ製剤の中に、仕様にない物質――「異物」ではなく、ヘムライブラそのものに由来するタンパク質と製造過程に含まれるシリコン(合成高分子化合物)とで生成された微粒子――が存在していることが判明した。しかし、その後の調査・検討により、安全性、有効性に問題はなく、これまで通り使用して構わない〟ことが伝えられました。本ネットワークとして、中外製薬に経緯と現状の説明を求めましたが、当該時点では、同社も詳細な実態を把握していませんでした。また、〝医療者向けには10月9日付で文書を発表したが、患者に対する情報提供については、検討中である〟とのことでした。
私たちは、国内でも使用者が増えつつあるヘムライブラに発生した出来事を重く受け止め、中外製薬に適切な対応を求めるとともに、この問題に関する海外の状況を調査し、WFH(世界血友病連盟)、NHF(米国血友病協会)などが公表している様々な情報を確認しました。ただし、これらにしても、必ずしも十分な内容ではなく、まだ多くの疑問点があるため、WFHあるいはNHF自体もメーカー(ロシュ/ジェネンテック/中外製薬)に対し、重ねての質問を行なうなど一層の対応を求めています。
本ネットワークは、このような現状を踏まえて、まずは日本の患者にこの問題に関する現時点で知り得る内容をお知らせし、今後とも、必要に応じて新たな情報を伝えて行きたいと考えています。ただし、英語からの翻訳・検討にはどうしても一定の時間を要してしまうため、可能な方は、WFH、NHFなどのサイト(後出)に直接アクセスすることも考慮していただければと思います。
WFHの発表(訳文)を掲載する前に、経緯の概要を記します。
・本年3月、ヘムライブラの中に、目に見えないくらいの大きさの半透明の微粒子が見つかった。
・微粒子は、ヘムライブラ由来のタンパク質と、製造過程で存在していたシリコンによって生成されていた。
・シリコンは、他の薬剤においても、製造過程でのシリコン製チューブなどに起因し、製剤中に含有されている場合がある。
・シリコンは医薬品、食品などで広範囲に用いられ、毒性はないとされているものの、大量に体内に入ると悪影響も想定されるため、静脈注射用薬剤では、含有量に基準が定められている。
・皮下注射用製剤では基準が定められていないが、シリコン含有による危険性は、静脈注射より皮下注射のほうが、より低いと考えられている。
・アメリカ・スイス・カナダ・日本・欧州連合の規制当局は、ヘムライブラを投与することによる危険性と有用性を評価検討し、ヘムライブラの販売継続を容認した。
・WFHは、現時点での情報に基づき、この問題に関して10月8日付で勧告を発表したが、〝既にエミシズマブを使用している患者〟に対しては、製剤の変更や治療の中断を勧めていない。
・今後、〝新たに治療を始める患者〟に対しては、ギリシャ当局が保留の方針を打ち出しているが、それ以外には、WFHなども、メーカー側も、特に見解を示していない。
一般社団法人 ヘモフィリア友の会全国ネットワーク
理事長 松本 剛史
WFH勧告 エミシズマブおよび他の生物学的製剤における微粒子について
静脈注射治療の開発以来、臨床医は、注射薬に含まれる微粒子の問題を懸念してきました。一部の微粒子は外的な要因に由来し(たとえば、投与の準備に際して)、あるいはまた、薬剤の製造工程における固有の要因から生成されます。 後者の場合、微粒子は薬剤そのものやその成分であったり、製造工程で用いられる材料(チューブなど)や製品のパッケージに使われている材料(ゴム栓など)であったりします。微粒子を含んだ静脈注射薬が、有害事象と関連した例もありました。従って、米国薬局方(USP)は、静脈注射用の薬剤に含まれる微粒子の量に基準を設け、静脈注射薬の調剤にあたっては、総ての容器の内容物に異物や微粒子が存在しないかを可能な限り検査することが望ましいとしており、もしその微粒子量が基準を越えていたら供給されることはありません。USPにより微粒子の検査手順が定められており、製造業者はこの業界基準に従う必要があります。
筋肉内および皮下注射における微粒子の問題は静脈注射と同じリスクを伴うものではありませんが、業界基準は同様に適用され、その基準は規制当局(FDAなど)の審査によって決定されています。
今回の医学情報の内容
2019年10月5日、世界血友病連盟(WFH)は、エミシズマブ(ヘムライブラ)の製造業者であるロシュ/ジェネンテック/中外製薬の担当者から以下の情報を受け取りました:
私たちの品質管理システムの過程として、製品の定期的な検査を行なっていたところ、ヘムライブラ(エミシズマブ)において、仕様書にはないほとんど目に見えない半透明の微粒子が確認されました。
これらの微粒子は薬剤本来の物質であり、毒性や安全性の評価ならびに入手可能なデータに基づいた検討の結果として、ヘムライブラの有用性と危険性の評価はこれまでと変わりがありません。微粒子は、タンパク質(ヘムライブラ由来)とシリコンオイル(PDMS:ポリジメチルシロキサン)から成っています。シリコンオイルは、総ての非経口医薬品に含有されている毒性のない有機化合物です。半透明の粒子は、他の承認済みの生物学的製剤においても、一般的に観察されます。
私たちは、2019年3月に保健当局に報告しました。欧州医薬品庁(EMA)、米国食品医薬品局(FDA)、連邦内務省スイス医薬品局(Swissmedic)、カナダ保健省、日本厚生労働省(MHLW)の総てが、私たちの評価――ヘムライブラの有用性と危険性はこれまでと変わりがない――に同意し、治療中断を避けるための患者へのヘムライブラ供給継続を支持しました。私たちは、最終的な分析結果を保健当局に提出し、それら保健当局との連携を保ちます。
私たちは、患者のために高い品質の製品を生産すると約束しており、ヘムライブラを含む総ての医薬品について、厳格な製造モニタリング、管理、検査を実施しています。
WFH勧告
2019年10月5日にWFHがこの問題を知らされて以降、ロシュ/ジェネンテック/中外製薬の担当者から、我々の質問への回答を得ました。
以下の点がWFHに示されました:
・微粒子が観察されたエミシズマブのバイアルには、治験段階での製品、市販後の製品がともに含まれていました。微粒子の量は、メーカーの事前の「閾値《しきいち》」(設定基準値)を越えていました。
1. 全ロットを見直したところ、この事象は治験段階の最初から起きていたことが最近になって判明しました。
・これは、科学文献で詳述され、保健規制当局から監視を受けている製造上の課題ですが、当局の多くが、エミシズマブ使用による有用性と危険性の評価はこれまでと変わり ないと見なしています。
1.エミシズマブの限られたバイアルに発見された微粒子について、米国・スイス・カナダ・日本・EUの保健規制当局の評価を受け、総てがエミシズマブの有用性と危険性の評価はこれまでと変わりないと決定しており、製造は継続し、患者の使用が可能となっています。
2.ギリシャの規制当局は、ロシュの拡大アクセスプログラム(EAP)において患者がエミシズマブの使用を継続することには同意しましたが、今回の問題が完全に解決するまでは、さらなる患者の切り替えについては保留しました。
・皮下投与による注射薬内に含まれる微粒子の危険性は、静脈注射に比べて小さいと考えられます。
・これまでに、微粒子と関連する有害事象は報告されていません。ロシュ/ジェネンテック/中外製薬は、現時点までに製剤のエンドユーザーから何らの報告も受けていません。
規制当局による評価の情報を含め、現時点でWFHが入手可能な情報に基づき、WFHは、既にエミシズマブを使用している患者に対して、製剤の変更や治療の中断を勧めません。
さらに、WFHは以下を推奨します:
・WFHは、ロシュ/ジェネンテック/中外製薬が製造工程および品質管理プロセスの完全な検証を行ない、エミシズマブの微粒子の規制に関する業界基準に全製品がより確実に適合する方法を定めることを期待します。
・WFHは、有用性と危険性の評価の変更を伴うこの製造問題に関するどのような規制関連情報でも報告されることを求め、併せて、ロシュ/ジェネンテック/中外製薬がギリシャ当局との最終的な解決を含めて製造工程と品質管理の見直しを終えて以降も、この問題の追跡調査を行なうことを求めます。
・既にエミシズマブを使用している患者に対して、製剤の変更や治療の中断を勧めないという現在の推奨は、製造と品質管理に関するロシュ/ジェネンテック/中外製薬による完全な検証を我々が評価するまでの暫定的なものです。
・ WFHは、ロシュ/ジェネンテック/中外製薬に対し、今後、医療提供者や患者団体に向けて体系的でタイムリーな情報提供を行なうことを強く求めます。問題が複数の規制当局の間に拡がりはじめてから、この出来事に関するコミュニケーションは不十分で、各国の患者団体(NMO)への情報提供は全体的に遅れました。NMOは、情報を受け取ったとしても、日時が異なり、それらの情報は統一されていませんでした。このような行ないは受け入れがたいものであり、ロシュ/ジェネンテック/中外製薬が重要であるとしている患者コミュニティの信頼を損ねるものです。
この問題について疑問や懸念を持つ患者や医療提供者は、血友病医療機関に連絡を取るべきです。WFHは、この問題について厳重な監視を続け、必要に応じて最新情報を提供します。
【参考】
(10/7)ジェネンテック
https://www.hemophilia.org/sites/default/files/Genentech-2019-10-07.pdf
(10/7)NHF
(10/8 上掲訳文)WFH
(10/11)NHF
(10/16)ジェネンテック
(10/17)NHF