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厚生労働大臣への要請書提出について

2016年1月14日

2015年6月以降、一般財団法人化学及血清療法研究所が製造している血漿分画製剤で判明した、製造工程での法令違反に関する一連の問題に関して、私たちヘモフィリア友の会全国ネットワークは、血友病とその類縁疾患患者団体の全国組織として、同所への意見書提出、所員や理事への直接聴取による情報収集その他、対応に努めてきました。

同所が業務停止命令を受けた今年1月8日、当ネットワークでは「化血研(一般財団法人 化学及血清療法研究所)製造販売による各種血漿分画製剤において判明した法令違反、及び、不適切な対応に伴い、血友病患者等への治療に関して厚生労働省が主導すべき危機管理の要請」を厚生労働大臣宛に提出しました。

これは、この問題に関するこれまでの国の対応に鑑み、血友病患者等への治療に対しての今後の十全な危機管理を要請するものです。

以下、全文を掲載します。

 

2016年1月8日

 

化血研(一般財団法人 化学及血清療法研究所)製造販売による各種血漿分画製剤において判明した法令違反、及び、不適切な対応に伴い、血友病患者等への治療に関して厚生労働省が主導すべき危機管理の要請

 

厚生労働大臣 塩崎 恭久 殿

 

 平素より、私たち血友病患者のために御尽力をいただき、ありがとうございます。今般の化血研による法令違反、及び、不適切な対応の露呈に関して、各地区患者会を代表する立場としての私たちヘモフィリア友の会全国ネットワークは、同所に対し、9月25日付で以下の三項目を柱とする意見書を送付しました。

 

*今回の事態に到った所内の経緯・原因を徹底的に究明すること。

*今後、同様の事態が決して起こることのないよう改善に当たること。

*ヘモフィリア友の会全国ネットワークをはじめとする患者・患者会に対して、上記に関する情報を包み隠さず可及的速やかに提供すること。

 

 化血研における内部調査は、貴省によって客観性に欠けると判断され、第三者調査委員会が設置、先頃、報告書の公表により、多くの状況が明らかとなりました。その結果、化血研のあまりにも杜撰な実態が白日の下にさらされ、メディアや世論の非難は必然的に同所へ集中しました。

 承認書と異なる製造、あるいは、その実状を隠蔽するための虚偽の製造記録の作成などが二十年以上続いていたと見られることから、事態の根本的責任が第一義的に化血研に帰することは確実でありましょう。しかしながら、たとえ意図的・悪意的かつ狡猾巧妙な行為であるとしてさえ、製薬企業による不正が患者――即ち国民――に甚大な健康被害を直接もたらし得る危険性に鑑みれば、その確実なる摘発・是正の実行が危機管理の主体たる厚生労働省に求められることは至極当然であります。

 今般の化血研による不正に伴い、私たちは、同所に対する責任追及とともに、事態発覚後における厚生労働省の対応に関しても、異なる観点から深甚なる懸念及び不安を抱いております。

 

 当初、貴省により「代替製品がない、又は代替品に切り替えると患者の生命に影響を及ぼす」とされた6製品16品目中、私たちに直接関わる血友病及び類縁疾患のための血液製剤――ノバクトM、コンファクトF、バイクロット――については、その供給を維持する為、同じく「現在の正確な製造工程、製造記録などにより安全性を確認した上で、一部変更承認等必要な対応がとられる前であっても例外的に出荷を認める」とされました。また、バイクロットにおいては、出荷停止以前に流通した製品も8月上旬には払底するおそれがあることから、緊急対処として、7月29日に出荷停止が解除、ただし、「現在35名の患者(小児~高齢者)に使用中」(化血研全国調査に基づく貴省資料)であったバイクロットの投与に関しては、貴省により――

 

・類似のバイパス製剤であるノボセブンHI、ファイバの使用を代替とする。

・しかし、これら類似の2製剤を用いた場合、医療上の重大な支障を来す場合があることから(十分な止血効果が得られない、手術を延期する弊害など)、バイクロットでないと対応できない患者もいる。

・したがって、こうした生命に影響を及ぼす危険性の高い患者の治療に応えるため、緊急避難対応として、出荷待ちとなっているバイクロットの在庫の一部出荷を認めることとする。

・ただし、バイクロットを使用する場合、その使用基準を明らかにするとともに、安全性確認の状況等インフォームド・コンセントの徹底を図ることとする。

 

――との条件が設けられました。

 

 そもそも、承認書と明確に異なる製法で作られていたことが明らかとなった当該製品に関しては、本来ならば、当然にも即座に出荷停止、承認内容の変更申請が課されて然るべきであります。それにもかかわらず、これらの製品が「緊急避難対応」として市場に出され、主治医によって「生命に影響を及ぼす危険性の高い」と診断される患者のために使用を認められるという特例的状況は、たとえ特例的ではあるにせよ、言うまでもなく、安全性の一定の担保なしにはあり得ません。

 この最大の焦点と目される当該製品の安全性に関して、貴省の見解には「これまで把握した情報や現在までの健康被害の報告からは、健康に重大な影響を与える可能性は低いと考えます」(報道発表)、化血研には「該当する製品は、国が定めた品質試験に合格した製品であり、健康に重大な影響を与える可能性は極めて低く、効能上も問題はないと考えております。また、これまでに供給した製品につきましては、本件に関連すると思われる重大な健康被害の報告は受けておりません」(患者向け文書)というように、不確実かつ抽象的に“安全”を示す表現が散見されました。しかしながら、仮にも「これまで」に既に健康被害の報告が上がっているとしたならば、「緊急避難対応」さえ考慮し得ないであろう論外の事態だったはずであります。

 当然ながら、薬剤における安全性の絶対的保証はなかなか困難であることは踏まえるとしても、化血研製血液製剤に関してこのような――ある意味、楽観的とさえ感じられる緩やかな――対応が採られるに到った最大の理由は、当該製品が承認書と異なる製法で作られたとはいえ、ヘパリンの添加をはじめ、それらの法令違反を含む不正行為が最終的に大きな製剤の危険につながることはほぼ想定し得ないという判断が、貴省、化血研、血友病専門医の間で当初より共有されていたからであろうと思われます。私たちも、この点について、同様の見解を――一種の期待とともに――持ってきたことは事実です。けれども、これについても、以下のような貴省の記述は、今回の事態に対する万全の保証たり得ているかとなると、あやふやな部分が残ります。

 

「添加されているヘパリンの安全性について

○添加されているヘパリンは、厚生労働省が定める基準を満たした安全なものである。

○最終製品でのヘパリン残存量は定量限界未満である → バイクロットの血液凝固能に影響はないと考えられる。

※活性化第Ⅶ因子及び第Ⅹ因子の力価は国家検定でも確認している」

「ヘパリンは、添加した直後の工程で検出限界以下まで除去されており、大きな影響は与えないものと考えられる」

「不純物が原因でアレルギーが発生する可能性は低い」

「・HBV、HCV、HIV、HAV、ヒトパルボウイルスB19 について核酸増幅検査(NAT)は陰性

→これらのウイルスに感染する可能性は低い」

 

 もしも、このような判断によって「出荷停止が解除される」製品の安全性が確実に担保されているのであれば、たとえばバイクロット使用に関する既述の条件、とりわけ「安全性確認の状況等インフォームド・コンセントの徹底」が必要となることはなかったはずです。翻れば、このような条件設定が求められる状況とは、即ち、ほぼ安全と目されるものの絶対の安全を保証得ない製品を、患者へのインフォームド・コンセントを最終的な拠りどころ(アリバイ)として見切りで使用に踏み切る・使用を継続するというものであります。事実、当初の「生命に影響を及ぼす危険性」という文言は、「緊急出荷されるバイクロットの使用基準(案)」(7月21日付)においては、「他のバイパス製剤2剤(ノボセブンHI、ファイバ)と比較して、バイクロット投与の有益性が明らかに上回ると主治医が判断した場合」と変化しました。

 疾病を抱えている患者にとり、それまで使ってきた製剤に関して、ある日突然「安全性確認の状況等インフォームド・コンセントの徹底」が十分可能であるのか、しかも、主治医により(少なくとも)既に「有益性が明らかに上回る」と判断されている製剤に関して、患者に更なる判断・取捨選択が可能であるのかについては、深甚なる疑問を抱きます。また、その後の仄聞する情報によれば、医療現場における改めてのインフォームド・コンセントの実施は必ずしも徹底されておらず、専門医もその必要性を必ずしも認めておらず、結果、インフォームド・コンセント遂行の責任主体――製剤の緊急的使用あるいは例外的使用を可と判断した厚生労働省に自ずから存するのか、貴省の指示を体して医療者との連絡を司る化血研に帰するのか、最終的に実作業を行なう主治医の裁量に一任されるのか――も不明確なまま推移しつつあるように感じられます。実際、少なくとも化血研は、インフォームド・コンセントの実施に関して、医療者に“お願い”をしているに過ぎず、その実行の有無、内容の程度、個々の患者の同意の有無等について、確認をするに至っていません。

 製造者の不当行為に基づく非正規たる医薬品を使用するにあたり、インフォームド・コンセントの徹底さえ実行されていないとするならば、それは、製品の最終使用者であり、製品の不備を一意に被ることとなる患者の意志の「不在」を意味するものであります。過去、私たちの仲間を見舞ったいわゆる「薬害エイズ」を惹き起こすに至ったこの国における危機管理の構造的不備が、未だ本質的には変化・改善されていないことを物語ります。今回の化血研製品が幸い結果的に安全であろうとも、それは僥倖に過ぎず、迅速適切な危機管理システムとはほど遠い実態であると言わざるを得ません。

 

 私たちにとって、血液製剤の安全性及び安定供給の確保は、生命をも左右する重大事であります。今回の化血研の問題は、その双方を根本から揺るがすものであり、かつ、これらに対する貴省の対処は、並立する二者の整合性を危うく維持するための綱渡り的な内容となった感が否めません。

 今後、このような事態が繰り返されることがあってはならないものの、万一に備える貴省の対応としては、患者個々の存在を重視し、患者個々の意向を汲み取り・踏まえたあり方が切望されます。大臣におかれましては、化血研の問題を契機として、血液製剤やワクチンの製造業界のあり方を議論するためのタスクフォースを設置すると聞き及んでおります。そのような場での検討を含めて、今後、本来不必要であるはずの重く困難な判断・選択を患者に課すことのない形での適切な危機管理体制を構築・推進されますよう、ここに強く要請いたします。

 

ヘモフィリア友の会全国ネットワーク 理事長

佐野 竜介