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化血研に対する意見書提出について

2015年9月25日

「貴所製造販売による各種血漿分画製剤に判明した製造方法違反及びそれに基づく出荷停止に関しての意見書」を9月1日付で一般財団法人化学及び血清療法研究所(以下、化血研)に対して提出しておりますので、お知らせします。

化血研は、その製造する血漿分画製剤が、国に承認された方法と異なる方法で製造されていることが判明したため、6月、厚生労働省より出荷停止措置を受けています。これらの中に血友病と類縁疾患の治療製剤が含まれており、当全国ネットワークは患者団体としてその動向を注視しています。今回の不祥事に対しては、国の薬事・食品衛生審議会 血液事業部会運営委員会において、同所の品質管理体制の見直しや真相解明のための第三者委員会の設置等に関する審議が行われていますが、その一方で、インヒビター治療製剤のバイクロットはすでに流通在庫が枯渇したために緊急出荷体制が組まれ、フォン・ウィレブランド因子を含む製剤としては国内唯一の製剤コンファクトFも流通在庫枯渇が時間の問題となっています。

このような、在庫枯渇のために安全性確認が充分に行われない製剤を供給せざるを得ないという状況及び出荷停止措置に関する現在までの対応に対し、当全国ネットワークは化血研に意見書を提出することとしました。誠実な対応を期待するものです。

以下、今回提出した意見書の内容を公開します。

 

2015年9月4日

 

貴所製造販売による各種血漿分画製剤に判明した製造方法違反

及びそれに基づく出荷停止に関しての意見書

 

一般財団法人 化学及血清療法研究所

理事長・所長  宮本 誠二 様

 

 貴所におかれましては、平素より血友病をはじめとする血液疾患等の治療に資する各種血漿分画製剤の製造販売に御尽力いただき、ありがとうございます。

 さて、今般、貴所製造販売による血液製剤のうち12製品26品目について、「承認書に記載していないヘパリンを添加」「承認書に記載された量と異なる添加剤を使用」「承認書に記載された工程を一部改変・省略」と承認書と異なる製造方法により製造されていることが判明、厚生労働省(以下、厚労省)は、これらについて、「出荷を差し止めるとともに、速やかに承認内容の一部変更申請等必要な対応を行うよう、化血研に指導」したこと、併せて「代替製品がない、又は代替品に切り替えると患者の生命に影響を及ぼす」6製品16品目については、「医療現場での使用に影響が出ないよう、現在の正確な製造工程、製造記録などにより安全性を確認した上で、一部変更承認等必要な対応がとられる前であっても例外的に出荷を認める」と発表しました(6月5日付報道発表)。

 一方、貴社サイトにおける「血漿分画製剤の出荷自粛について」と題された第一報(同日付報道発表)においては、「当所が製造販売する国内献血由来の血漿分画製剤の全製品について製造販売承認事項との齟齬が確認されましたので、当所からの出荷を自粛することとしました」とのみ記され、「齟齬」の具体的内容への言及は一切なく、事の実態は――厚労省発表以上に――全く不明のままでした。

 いずれにせよ、この報道に接し、私たちは大変に驚きました。薬品の「承認書」とは極めて厳正なものであり、些細な違反であっても営業停止に処される場合さえ珍しくないとも仄聞します。「これまで把握した情報や現在までの健康被害の報告からは、健康に重大な影響を与える可能性は低いと考えます」(厚生労働省)、「これまでに供給した製品について、現時点で本事案に関連すると思われる健康被害の報告は受けておりません」(貴社)というような根拠不十分なまま拙速に安全を打ち出す文言は、むしろ私たちの不安を募らせるものでしかありませんでした。

 その後、6月15日、及び7月28日の二回にわたり、各地区患者会を代表する立場としての私たちヘモフィリア友の会全国ネットワークが、貴所担当者より、事態の状況、及び、経緯に関する長時間の説明を受けました。たしかに丁寧なお話ではあったものの、残念ながら、我々の数多い疑問点を解消するには極めてほど遠い内容でありました。

 そもそも、6月5日付で最初に出された貴所の報道発表は「血漿分画製剤の出荷自粛について」と題され、「当所からの出荷を自粛する」とし、あたかも貴所が能動的・自発的な対処として「出荷を自粛」したかのような書きぶりでした。しかし、同日付で出された厚生労働省の報道発表は「一般財団法人化学及血清療法研究所において製造販売される血液製剤について」と題され、「出荷を差し止める」と――文言をそのまま読む限りでは――大きく異なる内容を述べています。

 第一回の貴所と本ネットワークとの面談において、私たちが「出荷を自粛」の経緯に関して問いただしたところ、貴所担当者より“実状と異なるので「自粛」の文言は検討・修正する”との表明がありました。追って貴サイトには6月18日付で「一般財団法人 化学及血清療法研究所の血液製剤をご使用の患者様へ」と題された文書が発表されましたが、ここでも「このたび、弊所が製造する血漿分画製剤について国に承認された方法と異なる方法で製造していることが判明したため、該当する製品の出荷を停止いたしました」と依然として曖昧な文言が引き続いています(これらは、現在でも貴サイトにそのまま公開されています)。

 厚生労働省サイトに公開されている本件を論議した「2015年6月23日 平成27年度第1回血液事業部会運営委員会」及び「2015年7月21日 平成27年度第2回血液事業部会運営委員会」の議事録によれば、貴殿は席上――

 

「【所内でコンプライアンスの厳格化を図っていたところ】製造部門のほうからこういうことがあるという申し出がございました。そして、それを内部で調査いたしましたところ、ここに報告がありますようなことがあったということが確認できましたので、それで私どもこれは大変なことだということで当局のほうに御相談いたした次第です」(第1回)

「さきの6月23日に開催されました運営委員会におきましての私の答弁の中で事実と異なる部分がございましたので、ここに訂正とおわびをさせていただきます。

 そのときに、立入調査を受けるに至りました経緯の説明の中で、私は、5月27日に当局に相談をして、それから立入調査が行われましたということを申し上げましたが、実際には、当局に事前に相談をしたという事実はございませんでした」(第2回)

 

――と、僅か一ヵ月足らずで答弁を大きく転換し、謝罪されています。即ち、本事案が明るみに出るに到った5月28日、29日に実施された厚生労働省、PMDA、熊本県による立ち入り調査(議事録より)は、化血研にとってはあくまでも受動的に――いわゆる“抜き打ち”的に――行なわれた出来事であったと推測せざるを得ません。しかし、これらの経緯は、私たちへの説明にあたっては明示されませんでした(当方からの指摘、追及によって、ようやく出てきた部分はありました)。また、上記運営委員会の論議においてさえ、事態の正確な時系列的推移は、不透明なままとなっています。たとえ未だ調査が不十分なための所内の混乱を踏まえてさえ、上述のごとき一点だけでも、本件にまつわる貴所の対応の不備は、甚だしく深刻なものと考えます。

 先述の「代替製品がない、又は代替品に切り替えると患者の生命に影響を及ぼす」6製品16品目中、私たちに直接関わる血友病及び類縁疾患のための血液製剤――ノバクトM、コンファクトF、バイクロット――については、厚労省により「現在の正確な製造工程、製造記録などにより安全性を確認した上で、一部変更承認等必要な対応がとられる前であっても例外的に出荷を認める」とされました。そして、ノバクトM、コンファクトFにおいては、承認書と異なる製法で作られた在庫分のウイルス除去に関する試験を実施して供給を行なうなどによっても、事実上、医療現場での使用には支障を来さないようです。これに比し、バイクロットにおいては、出荷停止以前に流通した製品も8月上旬には払底するおそれがあることから、緊急対処として、7月29日に出荷停止が解除されたと聞き及んでいます。ただし、「現在35名の患者(小児~高齢者)に使用中」(貴所全国調査に基づく厚労省資料)とされるこのバイクロットの投与に関しては、厚労省により――

 

・類似のバイパス製剤であるノボセブンHI、ファイバの使用を代替とする。

・しかし、これら類似の2製剤を用いた場合、医療上の重大な支障を来す場合があることから(十分な止血効果が得られない、手術を延期する弊害など)、バイクロットでないと対応できない患者もいる。

・したがって、こうした生命に影響を及ぼす危険性の高い患者の治療に応えるため、緊急避難対応として、出荷待ちとなっているバイクロットの在庫の一部出荷を認めることとする。

・ただし、バイクロットを使用する場合、その使用基準を明らかにするとともに、安全性確認の状況等インフォームド・コンセントの徹底を図ることとする。

 

――という条件が設けられています。

 そもそも、承認書と明確に異なる製法で作られており、本来ならば当然にも出荷停止、承認内容の変更申請を課されるべき製品が「緊急避難対応」として市場に出され、主治医によって「生命に影響を及ぼす危険性の高い」と診断されている患者のために使用を容認されるという特例的状況において、その患者に「安全性確認の状況等インフォームド・コンセントの徹底」が十分可能であるのか、患者にその判断・取捨選択が可能であるのかについては、深甚なる疑問を抱きます。

 事態発覚の当初より、最大の焦点と目される当該製品の安全性に関しては、先に記した如く「これまでに供給した製品について、現時点で本事案に関連すると思われる健康被害の報告は受けておりません」(貴社報道発表)、「これまで把握した情報や現在までの健康被害の報告からは、健康に重大な影響を与える可能性は低いと考えます」(厚労省報道発表)、「該当する製品は、国が定めた品質試験に合格した製品であり、健康に重大な影響を与える可能性は極めて低く、効能上も問題はないと考えております。また、これまでに供給した製品につきましては、本件に関連すると思われる重大な健康被害の報告は受けておりません」(貴社患者向け文書)というように、不確実かつ抽象的に“安全”を示す表現が散見されています。しかしながら、仮にも「これまで」に既に健康被害の報告が上がっているとしたならば、「緊急避難対応」さえ考慮し得ないこととなりかねない論外の事態であります。

 このような――ある意味、楽観的とも評されるべき緩やかな――対応が採られるに到った最大の理由は、当該製品が承認書と異なる製法で作られたとはいえ、ヘパリンの添加をはじめ、それらの違反が最終的に大きな製剤の危険につながることはほぼ想定し得ないという判断が、貴所、厚労省、血友病専門医の間で共有されているからではないかと推察します。私たちも、この点について、同様の見解を――一種の期待とともに――持っていることは事実です。けれども、これについても、以下のような厚労省の記述は、今回の事態に対する万全の保証たり得ているかとなると、あやふやな部分が残ります。

 

「添加されているヘパリンの安全性について

○添加されているヘパリンは、厚生労働省が定める基準を満たした安全なものである。

○最終製品でのヘパリン残存量は定量限界未満である → バイクロットの血液凝固能に影響はないと考えられる。

※活性化第Ⅶ因子及び第Ⅹ因子の力価は国家検定でも確認している」

「ヘパリンは、添加した直後の工程で検出限界以下まで除去されており、大きな影響は与えないものと考えられる」

「不純物が原因でアレルギーが発生する可能性は低い」

「・HBV、HCV、HIV、HAV、ヒトパルボウイルスB19 について核酸増幅検査(NAT)は陰性

→ これらのウイルスに感染する可能性は低い」

 

 もしも、これらの判断によって「出荷停止が解除される」製品の安全性が確実に担保されているのであれば、既述の条件、とりわけ「安全性確認の状況等インフォームド・コンセントの徹底」が必要となることはないはずです。即ち、いささか極端に言うならば、まず大丈夫とは考えられるものの絶対の安全保証はなし得ない製品を、患者へのインフォームド・コンセントを最終的な拠りどころ(アリバイ)として見切りで使用に踏み切っているとも映ってしまいます。事実、当初の「生命に影響を及ぼす危険性」という文言は、「緊急出荷されるバイクロットの使用基準(案)」(7月21日付)においては、「他のバイパス製剤2剤(ノボセブンHI、ファイバ)と比較して、バイクロット投与の有益性が明らかに上回ると主治医が判断した場合」と変化しています。

 

 私たちは、この出来事を非常に重大に受け止めています。従来、限られた患者のために貴重な製剤を作りつづけ、とりわけバイクロットという新製品を世に送り出したばかりの貴所の不祥事として、極めて残念に感じています。今回の違反自体は、幸いにも大過なく終るかもしれませんし、私たちもそうなることを切望しています。けれども、その本質は、大過なく過ぎれば消え去るものではありません。今回の事態は、患者にとって全く晴天の霹靂であり、貴所への不信を呼び起こすものであり、本来あるべからざる精神的負担を担わされたものであります。貴所におかれましては、この事実を真摯に認識し、反省していただきたいと考えます。その上で私たちは、貴所に対し、以下の実行を強く求めます。

 

*今回の事態に到った所内の経緯・原因を徹底的に究明すること。

*今後、同様の事態が決して起こることのないよう改善に当たること。

*ヘモフィリア友の会全国ネットワークをはじめとする患者・患者会に対して、上記に関する情報を包み隠さず可及的速やかに提供すること。

 

ヘモフィリア友の会全国ネットワーク 理事長

佐野 竜介