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小児慢性特定疾患の見直しに関する当会の主張

2013年11月14日

難病医療の見直しと合わせ、小児慢性特定疾患治療研究事業の見直しが国で進められています。血友病とその類縁疾患は、制度発足当時からの小児慢性特定疾患(小児難病)の対象疾患であり、その見直しは20歳未満の患者とその家族に大きな影響を与えるものですので、当会の主張を表明したいと思います。

 

生活保護世帯を除くすべての所得層の、小児慢性特定疾患の患児を持つ世帯において、医療費自己負担額の負担増が盛り込まれています。これに強く反対いたします。

 

私たちは、2013年10月19日、見直しを進めている「小児慢性特定疾患児への支援の在り方に関する専門委員会」の委員長宛に、自己負担増を懸念し、慎重な検討と判断を求める旨の要望書を提出しています。しかし、それ以降の同委員会でも、「公平で安定的な医療費助成制度の確立」「他の医療費助成の給付との均衡を図る」または「給付事業制度(義務的経費)とする」などの名目により、患児世帯の負担を現状より増す方向での案が提出され、検討されつづけています。

 

確かに、医療の進歩による医療費の高騰、それに伴なう国民支出の増加は看過しがたい重大な問題です。しかしながら、明らかに慢性的で重症の疾病を抱える(特に)子供たちに関して、短絡的に医療費の自己負担を求める方向性は、国家的財政事情を踏まえてもなお、許容しがたい福祉の後退といえます。

 

実際、卑近な例として私たち血友病患者における公費負担実現の歴史を振り返ってみるならば、1960年代後半以降、長年にわたる先人たちの苦闘・奮闘により、ようやくにして現在の制度が形作られました。ひとまず、「病気がちであったり、費用が高額な治療を長期にわたり継続しなければならない患者(高齢者、障害者等)を対象とする他制度の給付との均衡」が図られるべきとしても、「小児慢性特定疾患治療研究事業」が相対的に望ましいものであるならば、本来、それに合わせて他制度を引き上げることこそが目標とされるべきであり、不十分な他制度に合わせて本制度を引き下げるなど、全くもって本末顛倒といわねばなりません。

 

小児慢性特定疾患では、2004年の児童福祉法改正によって、治療研究事業が法制化されて以来、自己負担が導入されてきました。しかし、血友病と類縁疾患には、疾患そのものを重症認定とすることで、自己負担なしが継続されました。

 

これは1988年に衆議院社会労働委員会で決議された「血液製剤によるエイズウイルス感染者の早期救済に関する件」に記された救済措置第二項「血友病患者の医療費については、医療保険の自己負担分(月額一万円)を全額公費負担とすること。」によるものです。

 

2004年当時は20歳未満の血友病患者にもHIV感染者が存在しましたし、民事としての薬害エイズ訴訟は1996年に和解していたものの、刑事訴訟はまだ継続しており、問題そのものは社会に深く影を落としていました。これらは一連のエイズ騒動も含めマスコミなどで大きく取り上げられたため、現在においても一定の影響を与えており、血友病といえばエイズを連想する人はいまだに残っています。

 

しかし、今回の見直しで重症認定の制度そのものがなくなるため、血友病に関しても自己負担導入が避けられないものとなっています。

 

一方、現在までの全額公費負担の継続は、治療製剤の発達と相まって、血友病患児に福音をもたらしました。安全な治療製剤による定期補充療法が適切に行われることで、血友病患児が自立しはじめたのです。

 

特別児童扶養手当の給付が必要な状態の患児を持つ世帯の割合が減り、障害者手帳の交付適用となるような関節障害を持つ患児の割合も減っていきました。適切な量の治療製剤を定期的に輸注することにより、日常生活がほぼ支障なく送れるようになっていったのです。20歳以降に給付される障害基礎年金給付者も減り、就労への道が開けてきました。専門委員会で提出された調査でも、小慢受給者のうち血友病の就労状況は最も良好で、障害者手帳所有率も少ないという結果が出ています。このように血友病患児は現状では自立への道を歩みはじめています。高額な治療製剤を生涯にわたり頻回輸注するため、治療費はなるほど多額になりますが、それ以外の公的財政負担は低くなってきているのです。自立支援医療としては極めて成功している部類に入ると思われます。

 

しかし、治療の過程で製剤が効かなくなってしまうインヒビター患者の存在や、都市部と地方の医療格差は克服できていない問題として残っています。都市部を中心に良好な状態にある患児がいる一方で、そうではない患児・家族が一定程度いる状況であり、そちらへの対策は依然必要です。幼少期の頭蓋内出血や関節内出血は、それ以降の生涯を通じての後遺症を引き起こすことも多く、この年代の適切な治療は極めて重要です。また、この年代では医療者や親御さんが製剤を輸注することになるため、病院との往復や家庭での注射など、親御さんの物質的精神的負担も非常に大きくなります。

 

治療費自己負担の導入は、血友病にとって、治療水準の重大な後退に直結します。治療の手控え、通院機会の減少などにより、不適切な事態が発生することも予想され、とりわけ、現在でも都市部との医療格差にさらされている地方においては、今回の見直しにより、医療者・患者とも、治療に向かう姿勢が一層消極的になるおそれが極めて大きいと思われます。その結果、ようやくここまでの状況にたどり着いた日本の血友病患児・患者のQOLが、10年、20年以前の水準に落ちることさえも、十分に想定されます。

 

小児慢性特定疾患の対象疾患のひとつとして、他の疾患に勝る抜け駆け的な優遇措置など、もとより求めているわけではありません。難病に苦しむ患者・家族が等しくよりよい生活が送れることを願いつつ、主張を表明したいと考えます。