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バーチャル・ヘモフィリアシンポ2022が開催されました。ピアドクターのお話【2】

2022年9月16日

 



ピアドクターのお話【2】

 

【発言順】
近澤悠志 先生(東京医科大学臨床検査医学科)
細貝亮介 先生(新潟大学小児科)
鈴木伸明 先生(名古屋大学輸血部・血液内科)

 

*幼少期を乗り切ろう

 

進行
 定期補充療法の開始は早ければ早いほうが良いのではないかと思うのですが、時期によって実際にどのぐらい違いが現われるのでしょうか。

 

近澤
 定期補充療法の開始は早ければ早いほうがいいという様々なデータは出てきています。ただ、血友病と一言で言っても、重症度によって、本当に重症で出血される方と、比較的症状の軽い中等症、軽症の方がいらっしゃるので、どこまで早い段階で予防を始めるのか、そしてそれに意味があるのかというのは、正直難しい面もあります。とはいえ、やはり因子活性値が低い重症の方については、なるべく早い定期補充療法の導入が勧められるのではないかと思っています。そうするとインヒビターのリスクに関しても考えておかなければいけなくて、血友病Aの場合はヘムライブラがあってカバーが出来ますが、血友病Bの場合は今のところそういう方法がないので、悩むところではあるかなと思います。

 

進行
 血友病と判ったお子さんへの導入の時期については、保護者に対してどのようなサポートをされていらっしゃいますか?

 

細貝
 家庭環境も一人一人違っていて、患者さんを病院に連れてくること自体なかなか大変というような土地もあります。保育園に行かせるのか行かせないのか、病院と家の距離が近いのか、一人一人環境が違うので、なかなか画一的にこういう事をサポートするというのは難しいところではあります。
 血友病の小さい子を持つ親御さんとしては、〝この子、将来どうなって行くのかな〟とすごく心配されるケースが多いと思います。大体の場合は〝私も血友病なんです〟ということを最初にお話しして、〝私は結構悪いケースですが、悪くてもこんな感じです。意外と大丈夫ですよ〟というところから入ることが多いです。〝あまり思い詰めないで、血友病といっても今は普通に生活している人も多いから、まあ関節の出血はもちろん何回かしてしまうかもしれないけど、ちょっと出血したから大ごとになるということではありません〟と話して安心してもらったりします。
 あとは、〝いつでも連絡して下さいね〟と伝えておくということです。大学病院には連絡のし辛さとかもあったりするかもしれませんが、いつ電話しても私なり他の血液の担当医なりにつながって相談できるようにしているとか、ふだんは地元の病院にかかっているという人には、〝何かあればこちらに電話してくれれば相談に乗りますよ〟という形で伝えているとかですね。困った時に病院に行ったほうがいいんだろうかと悩むこともあると思うので、相談しやすい体制を作って行くことに気をつけているつもりです。

 

鈴木
 私は、さっき細貝先生が言った〝関節症は、幼少期を乗り切れば大人になってからも大丈夫〟というのは、全く同じように感じています。ですから、定期補充療法などの出血予防治療をなるべく早く始めたいと思います。もう一つ重要なのは、生まれて早期に好発する脳出血です。これは、その人の人生を大きく左右します。脳出血を防ぐためには、生まれてすぐから出血予防治療を導入するという発想、今だと、現実的にヘムライブラの早期開始に行き着きます。批判的な方も居るかもしれませんが、私の意見としては、出生後、なるべく早期に出血予防治療を開始することが、今後、トレンドになって行くと思います。そして、脳出血予防から、シームレスに関節障害を防ぐための出血予防治療に移行するという方向に進むと思っています。

 

*ピアドクターとしての想い

 

進行
 ピアドクターから若手患者へのアドバイスはいかがでしょうか?

 

鈴木
 生きてきた背景が異なる人へのアドバイスは難しいのですが、良い治療が出来るようになって、血友病患者の可能性は広がりました。しかし、血友病であるということは忘れないでほしいなと思います。現実から目を背けることなく、向かい合うことが大切です。血友病であることを否定して、無理をした時に問題は起こります。血友病であることは、自分の心の支えになったりすることもあります。必ずしもそれをネガティブな物として捉えるのではなく、実際にこういう場で色んな交流が出来たりつながりが出来て、人間関係の広がりを持てたりということもあります。ですから、血友病であることを忘れないでいてほしいな、と思っています。

 

進行
 医療者として情報提供はしているのに、患者の側が理解してくれないという経験はあるでしょうか。

 

鈴木
 それは日常茶飯事です。一回言って判るという人のほうが逆に少ないと思います。医学的な話は普通の人にとっては、とっつきにくい話もあります。ですから、一回話して〝この人は判ってくれなかったから駄目だ〟というのではなく、繰り返し伝わるまで、何度も説明して、辛抱強くやって行くのが大切だと思っています。

 

進行
 初めてお子さんが血友病と判った保護者ですと、冷静に受け止められる方もあれば、感情的になってしまう方もあるかと思いますが、どのように対応されますか。

 

細貝
 先ほども述べましたが、基本的にはその子が〝今後普通の生活を出来るだろうか、この子はどうなってしまうんだろうか〟という不安を最初に抱えているので、そこに関しては、先ほど言ったように私の経験を話します。一回説明しただけで〝あー、そうなんだ〟という理解にはなかなか到達しなくて、ライフステージに応じて不安事《ごと》も色々変わってきますし、一回で全部しゃべって全部理解できるということでは決してありません。繰り返し繰り返し大事な事はお話しして、という感じにはしていますが、なるべく雑談を増やして、日常でどういう事に困っているのかを汲み取るように努力はしています。どうでもいい話から有用な情報が引き出せることもあるので、診察ではちょっと時間を長めに取って、うまく情報を引き出して不安を解消して行けるように出来ればいいな、とは感じています。

 

近澤
 鈴木先生もおっしゃっていましたが、患者さん御自身が何か困っている事があるのかどうかがやはり大事です。医学的に見ると明らかに毎月毎月出血している人でも、たとえば、それが御自身にとっての自然だというふうに認識している場合もあります。そうなると、日常生活を改善してくれるような新しい薬が出てきても、御自身は必要としていないという話になりがちです。そういう方だと、短い時間で色々解決に持って行くのが正直に言って難しいという経験は良くします。
 細貝先生もおっしゃっていたように、とにかく時間が必要で、長い時間をかけて対話をして行くことが大事だと感じています。東京医大ではこの四月から、これまで出来ていなかった包括外来を新たに立ち上げ、一日かけて関節の評価をしながら、実際に患者さんと対話をしながら問題点を抽出して行く試みを始めています。通常の外来ではなかなか時間が取れませんが、たとえば30分ほどお話しするだけでも、ふだんの診療では見られない患者さんの背景ですとか、困っていないようで実際には困っているような事を新たに共有できたりします。逆に、実はキックボクシングをやっていると聞かされて、意外と血友病でもここまで大丈夫なんだな、とこちら側に新たな発見があったりもします(笑)。時間をかけることの大切さを改めて感じているところであり、これからもドンドンとやって行きたいなと思っています。

 

進行
 スタッフの中から、〝ピアドクターの皆さんは、自分の血友病についてどのように感じていたのでしょうか。「どうして自分が?」と考えたことはありましたか?〟という質問が出ていますが、いかがでしょうか。

 

細貝
 もちろんありました。私くらいの世代ではおそらく皆さんあると思います。学校関係とかでコンプレックスを抱く場面が必ずある世代ですので、何度も思いました。ありがちですけど、〝なんでこんな病気に産んだんだ〟とか。ただ、子供の頃は色々コンプレックスを抱く場面が多いと思いますが、大人になるとそうとも言い切れません。仕事によっては、血友病であることがあまりコンプレックスにならないケースもあります。私も医者になって、血友病がコンプレックスにならなくなりました。むしろプラスに働く場合も多くて、人生何が起こるか判らないということなんですが、そういう事を患者さんに話すこともあります。
 たとえば足が出血してしまって運動会に出られなかった、すごく残念だ、それは良く判りますが、それは人生全体のごく一部に過ぎません。その時はどうして自分は血友病なんだって思うかもしれないですが、将来――10年後20年後になったら、〝まあそんな事もありましたね、アハハ〟と笑い飛ばせる時期が必ず来るから、〝今だけじゃなくて人生全体を考えられるようになるといいよ〟という話を患者さんにしたりしています。

 

近澤
 私は、小学校低学年の頃に薬害エイズの報道がテレビで盛んに報じられていたことを記憶しています。当時、鼻血が良く出ており、クラスで悪目立ちしていたと思います。そうすると血友病を理由に心無い言葉をかけられたりしたような経験もありまして、傷ついたりしたこともありました。とはいえ、子供って、悪気がなくそういう事、色々相手が傷つくような事を言ったりするところもありますよね。そういった経験から、誤解を与えることなく人に物事を説明できて、更には困っている人を助けてあげられるような大人になろうというマインドが育ったかな、という自負があります。多少辛い経験もプラスにして行けたのではないかという面に関しては、自分は血友病でも良かったのかなというふうに思うところが正直あります。

 

鈴木
 私も子供の頃は母親に〝どうして産んだんだ〟と何度も当たり、そして親子で何度も泣きました。薬害問題も重なり、本当に絶望しかありませんでした。それを母と共に、ひたすら耐えに耐えた幼少期から少年期です。その後、血友病を生涯の「敵」として戦って行こうと決めて、医者を目指しました。そう決心してからは、前向きになれました。共に戦ってくれた母親は亡くなりましたが、いつか血友病が治る病気になって、母親に報告することが、私の人生目標です。

 

進行 
 血友病は「敵」ですか?

 

鈴木
 私たち親子にとっては「敵」です。生涯の「敵」として戦います。ただ、血友病が治る病気になっても、私自身は母から受け継いだ血友病と共に生きて行きたいと思っています。血友病を治る病気にして、血友病と共に人生を終えたいのです。

 

【おわり】