血友病とは
概要
私たちの間には、様々な先天性止血異常が存在しています。
そのうち、先天性血液凝固第Ⅷ因子障害(血友病A)と先天性血液凝固第Ⅸ因子障害(血友病B)を総称し、血友病と呼びます。これは、血液を固める凝固因子の一部の活性が低い、または欠けているため、止血に時間がかかる体質です。つまり、血友病とは、「出血が止まりにくい」のであり、「自然に出血しやすい」わけではありません。
関節内出血や筋肉内出血が主な症状ですが、血尿や消化管(口腔内)出血も見られます。多くの場合は、打撲や四肢の使い過ぎなどが出血の原因となります。
また、健常者なら自然に止まるわずかな出血でも、大きな血腫になってしまう場合もあります。
発症
血友病の遺伝形式はX染色体連鎖性(伴性)であり、劣性で発症します。母方のⅩ染色体の第Ⅷ因子または第Ⅸ因子の遺伝子に異常がある場合、それは、X染色体を一本しか持たない男性に受け継がれ、血友病を発症します(女性も極めて稀に発現する場合があり、男性血友病に見られる関節内出血や筋肉内出血に加えて、月経時や出産時に困難があります)。遺伝子に異常がある女性は、「保因者(キャリア)」と呼ばれます。
でも、遺伝子の突然変異により血友病を発症したと推測される例も多く、血友病者の約3割には、家族歴が見られません。明確な割合は不明ですが、血友病の発症には遺伝と突然変異という二つのパターンがあると考えられています。
発症頻度
2011年度の「血液凝固因子異常症全国調査」によると、日本国内では血友病Aが4475人(男性4446人、女性29人)、血友病Bが971人(男性958人、女性13人)確認されています。
報告されていない患者を考え合わせると、発症頻度は男性1万人あたりに0.8~1人と推測されます。凝固因子活性の程度により、患者は重症、中等症、軽症に分かれます。
症状
血友病の出血は、外傷のほか、皮下、手足の関節や筋肉、歯肉、鼻、頭蓋内などに起きますが、年齢によって出血しやすい場所部位が異なります。たとえば、乳幼児期は外傷出血や皮下出血が、学齢期には鼻出血や歯肉出血が多く見られます。
でも、ひとつひとつ丁寧に止血の対処を行なえば問題はありません。小さな切り傷程度で慌てる必要はないのです。けれども、関節や筋肉内の出血、頭蓋内出血については注意が必要です。関節や筋肉内の出血は、治療が不充分だと血友病性関節症などの機能障害を引き起しますし、頭蓋内出血は生命の危機に直結します。
様々な出血は、身体が完成する17歳ごろまでに多く、その間に適切な治療によって機能障害を起こしていなければ、しだいに「出血しにくくなる」ので、ほぼ健常者と同じ生活を送ることができます。したがって、思春期までの時期をいかに健康に過ごすかが問題です。この時期は学齢期と重なるので、学校側の理解と適切な対応が重要となります。
現在では、血友病医療の発展によって、生活上の制限、とりわけ学校での体育(運動)の制限も少なくなり、スポーツの代表選手になるような血友病児もいます。親と学校が互いに連絡を取り合い、血友病児が積極的に生活し、豊かな経験ができるよう支援していくことが大切です。
治療
血友病は「20歳までは生きられない病気」とも言われてきました。けれども現在では、医療の発展によって、健常者とほとんど変わらない寿命を全うすることも可能となっています。
血友病は、二世紀のバビロニア時代から知られていましたが、その医学的な本態が解明されたのは、ごく最近のことです。特に治療に関しては、十九世紀中ごろに英国で輸血が用いられたという記録はありますが、血液型さえ不明な時代であり、非常に危険な試みに過ぎませんでした。その後、血液に関する知見が深まってからも、長きにわたって効果的な止血方法は見つからず、血友病者は関節出血の痛みに何日も耐え、大量の出血にあたっては、依然として全血輸血がほとんど唯一の対処法となっていました。
しかし、1944年、コーン(Cohn)らの研究でエタノールによる血漿タンパク質の分画法が発見され、血液製剤開発の研究が始まりました。1964年、プール(Pool)によって第Ⅷ因子を大量に含むクリオプレシピテート(cryoprecipitate)が開発され、血液製剤使用の一般化をもたらしました。血友病治療の転換点であり、現在の医療の基礎といえます。
血液製剤の出現はまさに画期的でしたが、1980年代以降、輸入非加熱血液製剤によるHIV感染、HBV感染、HCV感染という大変不幸な事態が発生し、血友病者を苦しめ、多くの犠牲を生むに至りました。この出来事を踏まえ、現在使われている血液製剤は、血漿由来製剤、遺伝子組み換え製剤とも、極めて高い安全性が追求・実現されています。
課題
各種の血液製剤は特に高価なものですが、現在の日本においては、医療費の公費負担制度が維持され、血友病治療の普及に寄与しています。これに基づき、自己(家庭)注射、定期補充療法が可能になり、血友病の生活の質の向上につながっています。
けれども、現時点では血友病は完治するものではなく、また、インヒビター(凝固因子を阻害する抗体)の問題、保因者(遺伝)の問題も重要です。そして、世界に目を向ければ、血友病者の75パーセントは未だ十分な治療を受けていないという現実もあります。私たちは、これらの状況を見据えつつ、互いに協力しながら、よりよい未来を作り上げていきたいものです。