みる・きく・よむ

WFH世界大会・マドリード2024 報告

WFH(World Federation of Hemophilia ; 世界血友病連盟)は、血友病の国際的な患者団体です。私たち全国ネットワークは、2016年に日本を代表するNMO(National member organization)となり、情報交換、意見交換を続けています。WFHのミッションは、“Treatment for all(すべての患者に治療を) ”です。

WFHは2年に一度、世界大会を実施していますが、近年は、新型コロナ禍の影響により開催見送りもありました。昨2024年は4月21日~24日にかけてスペインのマドリードで無事に開催され、本ネットワークからも、松本理事長はじめ、複数の理事や会員が訪れました。大変遅くなってしまいましたが、参加報告をお届けします(写真は、参加者の皆さんから提供された物です。小さなコマは、拡大されます)。
 

鈴木浩幸(千葉ヘモフィリア友の会)

*なぜ参加したか
 今回、ヘモフィリア友の会全国ネットワークより、費用を援助していただき参加することができました。
 私は、22年前、第25回WFH世界大会(2002年5月19日から24日)に参加し、その当時は、世界から見て日本の全国的患者会はなく、模索状態だったと思います。
 報告書によれば、ブライアン・オマホーニイさんの強い希望で、WFHに加盟していない日本が招待されていたと思います。
 参加団体はネットワーク医療と人権、はばたき福祉事業団、北海道ヘモフィリア友の会、むさしの会、考える会などで、参加人数も数十人と多く、その様子は報告書としてまとめられていました。
 私は千葉県の患者団体ではありましたが、ほぼ単独で参加(弁護士の方と参加申し込みを)しました。
 弁護士の方、通訳の方には夜の食事等大変お世話になったと思います。
 今回の参加の動機としては、自分でもよくわかりませんが、今現在の血友病に対する治療、製剤、血友病患者の社会生活等、WHFの全体的な空気感を感じたかったのと仕事も定年を過ぎ今一度参加してみたかった。ということです。
 そんなタイミングで、全国ネットワークより参加の募集があったので応募した次第です。



*マドリードで感じたこと
 私は、英語のヒアリングも話すことも出来ないので、通訳の方(小林まさみさん)が頼りでした。その中で献身的に体調の悪い中、通訳していただきました。
 私以外の参加者は少なくとも英語が聞き取れる人たちで、医療関係者、患者団体代表者でした。

・各セッション参加について。思ったより組織的・計画的に各報告を取り入れることができなかったのではないか。
・各セッションの目星をつけ、事前に計画し情報収集ができていたのだろうかという疑問を感じました。

 今回の参加者は私を含め6名(松本先生、花井さん、野村さん、吉本さん、阪口さん)で、滞在期間を通して親近感が湧き、それぞれの人の考えなどが少しわかりました。

・今回の世界大会に際して、若い患者が参加したいと、積極的に全国ネットワークにお願いし、費用を捻出参加したこと。
・血友病という病気を一般の人に知ってほしいと熱く語っていたこと。

・アジア圏の患者ミーティング(サノフィ主催)
 アジア地区:韓国、台湾、香港、オーストラリア、ニュージーランドなどの報告会。

 世界の国々、先進国、新興国などどのような治療、制度があるのか知りたかった。
 実際言葉の壁があり直接は話せなかったが、ふっと近づく感じがする場面があった。

・NMOについて(活用)
 以前に行ったNMOの教育と現在の教育は同じなのでしょうか。
 また、現在日本ではどのような活用をしているのでしょうか。


             小林まさみさんの夫であるデイヴ・ウィーズナーさんと。右は松本剛史理事長

*伝えたいこと
 今どのように血友病治療が進んでいるのかを知り、日本の患者・医療関係者に知ってほしい。

 かつて血友病を取り巻く数十年前の出来事は、その時々を経験した人には激動の時期があり、その後の生活環境の改善は目を見張るものがあります。
 決してそれらはただ訪れたのではなく、言葉にはできないくらいの、出来事があったと思います。
 とかく、治療、社会生活が安定してくると当たり前のようになりがちですが、決してそうではないと思います。
 現在は、製剤の種類が覚えられないくらいに各社から発売されるようになっていますが、まだまだこれからも問題が訪れると思います。
 これからの日本における経済縮小、医療費の増大に伴い製剤治療費の問題や、生産人口減少に伴う社会保障の問題、日本は現在人口減少という課題に直面していますがこの問題は社会保障に関する問題として、今まで当たり前と思って行っている医療が受けられなくなる可能性があると思います。

・患者、医療との継続的な体制の維持
 現在の医療が継続的に行われるには、日本における医療体制を維持するために継続的な行政、医療者、患者との間に連絡できる組織が必要。(それにあたる組織は)一度完成した形は維持されるべきです。その方法を確立して、いつでも行動出来るよう体制をととのえておかなければならないと思います。

*最後に

 参加者の皆さまには、空港との送迎、ホテルの予約、交通機関の期間限定フリーパス、観光、夜の食事、会場芝生での昼食など楽しく過ごすことが出来ました。
 今回世界大会に参加してとてもよかったと思います。何よりも良かったのは若い人たちが積極的に大会に参加して、日本の血友病患者のために何をしたらよいか何をすべきか、世界の血友病患者と繋がりを持ち輪を広げるという気持ちがあるということが何よりも感心しました。このような若者がいることを、また出会えたことをとても嬉しく思い、それだけでも大会に参加したことは有意義でした。
 また、ヘモフィリア友の会全国ネットワークという組織が、私の知る範囲ではあまり浸透していないと思います。問題は幾つかあると思いますが、血友病を正しく理解し、一人の患者として、話し合っていきたいと思います。

 

 

                           プラド美術館のゴヤ入口

吉本知史(万葉ヘモフィリア友の会、YHC=Youth Hemophilia Club)

・自己紹介
 血友病A中等症 6歳の時に歯が抜けた際の出血により血友病罹患者であることが判明。今に至るまで治療を継続しておりその甲斐あって関節症など大きなトラブルなく経過しており、現在は小児科医師かつ全国ヘモフィリアネットワーク友の会(以下、全国ネット)理事、Youth Hemophilia Club副代表として活動中。

・はじめに
 これまで私自身血友病に関する活動はそれほど行っておらず、患者会などに属して積極的に行うようになったのはここ数年のことである。特に生活に不自由せず、何となく生きてこられたからだ。しかし、他の血友病患者と接して、自分とは違う生き方・経過を経た人たちの話を聞いて血友病を取り巻く環境は決して平穏なものとは限らないことを知り、血友病に関する活動に参加しようと考えた。
 今回のNMOとWFHへの参加も、全国ネットの他の理事より推薦を頂いた上で今後自分の活動に関する糧になると考えたからである。本参加にあたって推薦を頂いた理事の方々、長期間の休暇となるにも関わらず参加を承諾くださった職場の方々、その他多大なご支援くださった方々に深謝いたします。

・GNMOT(Global National Member Organization Training)
 これまで血友病の活動はもとより、海外のイベントに参加することも初めてだった私には刺激の連続だった。

                       WFH役員のアサド・ハファル(Assad Haffar)医師と
 

 スペイン到着初日。WFHからの連絡ですでに知っていたことだが宿泊するホテルは相部屋、見ず知らずの人間と共に過ごすことになっており、ホテルの部屋に着くと一人の男がベッドに横たわっている。人とのコミュニケーションに自信がない自分がどうしようかと考えていると、その人は起き上がり気さくに挨拶を交わしてくれた。どうやら韓国人らしい。これまでの自分の血友病に関する過去や職業、韓国の血友病治療の環境や酒が大好きな上司とのやり取りまで教えてくれた。ここで自分が感じたのは外国での事情を知ったことで、かえって自分の国の情勢について改めて知りたくなったということである。

 明けてGNMOT 1日目。フォンビルブランド病の診断、組織のガバナンス、フィリピンのNMO、マレーシアのNMOの活動と初日から内容が盛りだくさんである。特にガバナンスについては組織を動かしていくための知識――意思決定、ガイドラインの策定、予算、外部組織との関係構築、役割分担など――が数多く盛り込まれており、YHCの運営にも生かせることが数多くあった。

 ワークショップも開催された。架空の国のNMOが財政的な理由から存続することが困難となりそうな状況で、我々ならどういった方策を打ち出すか?というお題を数人のグループごとで行うというものだった。これまた初対面の外国人とグループを組んだのだが、どうしてもうまくいかない。英語でのコミュニケーションに不慣れな部分もあったが、目指すゴール地点やその下地となる価値観に違いがあるようである。同行して頂いていた翻訳家の方に後ほど聞くと、こういった政治的施策を打ち出す際の下地となる価値観が、現実的な部分を重視するか理想的なものを目指すかが国によって大きく違いがあるとのことだった。国を超えての意思決定の難しさを予想外の場面で味わったのである。

 GNMOT2日目。スペインのハムを朝食で味わってスタート。この日もワークショップ。18歳以上の患者に治療薬が行き届くようにするには何をするか?というお題。資金調達、政府との折衝、厚労省との定例会議、治療に関する教育機関の設立など、やはり英語でのコミュニケーション(特に英語をネイティブとしている人たち相手では)内容を自分なりに飲み込んで理解して意見を出すことはなかなか難しく、内容が分かっても具体的に実行に移すにはどうすれば良いかを考えるにはさらに困難ではあるが、この日も今後の活動に必要な考えを得ることができた。この日はワークショップだけじゃなく、コーヒーブレイクで様々な国の参加者と打ち解けることができた。特にアジア圏の人たちはコミュニケーションもしやすく今でも友達である。
 2日間のGNMOTを通して、自分に足りないものを強く見せつけられる格好となったが、それと同じぐらい得られるものがあり非常に充実したものだった。

・WFH
 4日間の学会。医師として勉強になる内容が多くあった。血友病に対する治療法の拡大、既存の治療薬による治療成績の向上、関節症治療の今後、関節エコーワークショップ、痛みの評価など血栓・止血領域に関わる内容が盛りだくさん。専門医ですらない私には消化しきれないほどの物量だったがさらに勉強したいと思わせるものが数多くあったように思う。

・まとめ
 血友病に関する活動を、これまであまりやっていなかった自分にとってすぐには消化しきれないほどの内容の多さではあったが、生かせるものは多く今後の活動をより進めていける推進剤となったのは間違いないだろう。


        来日したこともあるモンゴルのエンクスルド・テルビッシュ(Enkhsuld Terbish)さんと

阪口直嗣(大阪ヘモフィリア友の会、YHC=Youth Hemophilia Club)

 今回スペイン開催でのWFHに参加させていただきました。
 そこでは過去2018年に出会った仲間とも改めて再会もでき台湾、韓国、ニュージーランドと行動で話す機会もいただき世界との繋がりも作れたことが非常に良かった。

 今回のWFHではヘムライブラのことが多く取り上げられていた。
 ヘムライブラは今までにない血友病にとっては活気的な治療方法である。
 従来の凝固因子製剤は出血を予期して出血を防ぐ目的で欠損している凝固因子を定期的に投与する必要あった。しかし、現在では血友病の人が活発的な生活を送ることを可能にしながら出血を予防し効果的でかつ安全に予防する止血剤、定期的に投与していくことが重要になると最近ではなっている。そんな中、先進国以外の各国と比べると予防投与としてできているのは少なく、インドでは5%未満である。予防という意味では、まだ根付いていない状況である。資金が限られている地域との格差は多く、支援が必要な国は多くある現状である。血友病Bにおいては半減期延長型製剤の効果がよく、この状況は続くと考えられる。そのなかでもインヒビターのある血友病B患者については抗凝固物質を抑制する再バランス療法が期待されている。

 ただ、それより先に2年前より出てきた、血友病A、B共に遺伝子治療が多く取り上げられている。日本では承認はされてはいないが海外では承認されている国も見られている。一度行うと注射を続ける必要もなくなれば、やりたいことを我慢する必要もなくなるなど私たちにとって非常に夢が詰まった治療法で日々の生活が明るくなるものであると改めて感じた。しかし、その中でも3つ課題がありました。

 新しい治療法であるため治療後何十年も経ってからも薬効が続くかは不明であること。現在、確認されているだけで5年間は50%を保つことはできていること。現状では、20年続くかは不明。2つ目に挙げられていたのが血友病Aの場合は5年も経つと徐々に凝固因子活性が下がってしまうと報告されていました。以前のような凝固因子製剤の定期投与は不要ですが、野球、サッカーなど激しいスポーツをする上では皮下注射などの抗体製剤と組み合わせる必要があるとも言われていた。3つ目としては遺伝子治療とは生涯で一度しか受けることはできない。身体に抗体ができてしまうため2度目は受けることができないことが挙げられている。
 実際に、これが近い将来使用可能になれば多くの当事者が救われるだろうと感じた。


 しかし、日本でも血友病Aにとってはヘムライブラの登場によってインヒビターのある患者の治療や、小児患者の治療が劇的に変わりました。使用できる年齢層にも幅が広く、特に小児期には良く使用されている。活動強度の高い運動する上では活性値のコントロールが困難になることもある。運動強度が上がることによって製剤の頻度や投与量を変えていかないといけないことも挙げられていた。その上で、関節内出血を起こさないためにどうすべきかを医療者側は考える必要がある。当事者の思いを受け入れつつ、今後の将来を見据えて考え関節症のリスクを減らすための治療を考えていく必要がある。

             インド血友病連盟のジャグディシュ・シャルマ(Jagdish Sharma)副会長と

 当事者側は運動を始める前は主治医と相談することが大切になる。相談をしていなければ今の治療を続けることで出血を防ぐことができるかはわからない状態にある。何か新しいことを始めたい。運動をしたいなどの思いがあるなら相談して治療方針を相談して決めていくことが重要である。しかし、日本では診察時間を長く時間を取ることがなかなかできない現状がある。その中で、看護師の立場が大事になってくると私は感じました。当事者の思いを引き出し相談し、思い描いているものに近づけていくための支援、橋渡しも必要になると考えられる。

 私自身が看護師という立場でもあるため、各患者会との交流やイベントを通して当事者、家族が抱えている問題を聞き出し、それぞれに合ったことを提言していけたらと思いました。YHC(Youth Hemophilia Club) としても、若い世代に日本での恵まれた環境の中で自分自身に合った製剤を提供してもらえるように思いを伝えることが必要になることを提言しながら各患者会と協力して地域格差を減らせるように活動していくことが大切である。

 最後に、今回のWFHでは各国の当事者の若い世代との交流を深める場が設けられていた。
 日本でも血友病へ関わる若い世代が少なく人数も限られている現状である。その中で、海外の当事者と関係性を繋ぐことができたのは大きな収穫であったと言える。
 様々な視点での考え方、情報収集の仕方など多くの面で刺激的になった。今後も各国の同世代と繋がりを継続してグローバルな視点から血友病の課題と向き合っていきたいと考えさせられる機会になったと感じた。
 

 
                      ロートレックに彩られたレストラン

花井十伍(MARS=ネットワーク医療と人権)

 2024年WFH世界大会は、4月21日から24日の日程で、マドリードのIFEMAコンベンション・センターで開催されました。日本からは松本理事長をはじめとして、10人程度の参加にとどまりました。会場は地下鉄駅のすぐ前ではあるものの、会議のメイン会場は駅の反対側の端に位置しており、徒歩で12分ほどかかるため、高齢血友病患者には結構厳しめの動線です。
 これまでは、会議開催の翌日に開催されていたジェネラル・アッセンブリー・ミーティングは、本会議前日の21日に開かれましたが、登録出席者以外は会場に入場できないルールとなっており、理事長のみの出席となってしまいました。2028年開催立候補国のメンバーが多人数で出席していたところを見ると、参加者は事前に全て登録しておかなかったのが悔やまれますが、これまで比較的自由に出入りできていたことから、事務局として思い至らなかったことは致し方なかったと言えます。日本の席が準備されていなかったトラブルもあったそうで、理事長の孤軍奮闘を労いたいと思います。最後に2028年の開催地はシカゴに決定して無事終了したとのことでした。21日のプレセッション・デイは、朝8:00から夜まで日程が詰まっており、長時間のフライト直後であったこともあり、かなりのハードスケジュールになりました。



 オープニングでは、ホスト国スペイン患者会の会長であるダニエル-アニバル・ガルシア・ダイゴさんが、スペインでは25年前に大会が開催されたが、今回、会長として大会ホストとなることができたことを嬉しく思うと挨拶し、WFHの大会の多様であることが紹介されました。WFH会長のシーザー・ガリドさんも、60周年を迎えるWFHには、147のNMOが参加しており世界の多様な取り組みを学んで帰ることができることを強調しました。
 CEOのアラン・バウマンさんは、世界の33%の患者は診断を受けておらず、地域によっては診断率は9%を下回っており、1800万人の凝固異常を有する女性が生理の異常を抱えていると述べ、WFHが全ての凝固異常症を有する人々に治療が提供されることを目指していることを強調しました。
 最後に、メディカルの副会長であるグレン・ピアスさんによって「患者の治療に対する攻撃に対する警戒」という些か物騒なテーマについて説明が行われました。ピアスさんは、攻撃者がWHOとISTHの治療ガイドラインであると述べました。これらガイドラインは、血友病に対する基礎的治療薬はクリオであるとする時代遅れのものであり、まったく血友病治療の変化を理解していないものであると批判するとともに強く反対すべきであることを呼びかけました。
 サノフィ社によるアジア地域懇談会は、ドバイ経由のフライトが遅れたため、時間を押して行われました。出席国は、日本の他、ニュージーランド、オーストラリア、韓国など比較的療養環境が良好な国が中心であり会議の趣旨自体いささか曖昧なものとなりました。日本からは、報告患者数と血友病治療機関の現状並びにレジストリを構築中であることなどを紹介しました。
 
 初日22日の安全性全体会においては、インヒビター、肝炎、HIV、CJDなどの感染リスクなど過去の安全に関する問題を振り返るとともに、現在の遺伝子治療や血栓症などの新しいリスクについて語られました。こうしたリスクに対処するための基本的考え方は、説明を受けての意思決定、協同での意思決定、リスク・ベネフィット分析ということになるとのことです。
 マーク・スキナーさんもWHOの基礎的医薬品リスト(EML2023)を批判的に紹介しました。スキナーさんは、WHOの基礎的医薬品リストは、安全で費用対効果の高い治療の可能性に基づいて選定されるものであり、基本的医療システムに最低限必要な医薬品リストを中核リスト、専門医が診察する優先される疾患に対する必須医薬品を補完リストとしてリストアップするものですが、遺伝子組み換えや血漿由来の濃縮製剤ではなく、クリオプレシピテートを中核リストに記載することは、治療の後退です。現在の科学的根拠は濃縮製剤の掲載を支持していると述べました。これを受けて、WFHは、WHOに次のような要請を行ったことを紹介しました。

1.病原体を除去しないクリオプレシピテートを中核リストから完全に除外するこ
  と。
2.病原体を除外したクリオプレシピテートを補間リストに移すこと。
3.濃縮製剤を中核リストに昇格させ、不可逆的に患者の健康リスクとなる感染症
  対策については、2025年の次期EML改正を待たずに早急な対策を要望する。

 インディアナ大学のラデク・カツマレク氏からは遺伝子治療に於いてのベクターと遺伝子導入のリスクについて発表がありました。アデノ随伴ウイルスを用いた血友病遺伝子治療においては、体重1kgあたり1兆個から10兆個のベクター・ゲノムを投与しますが、ほぼ全ての製品で肝臓の酵素値に異常が認められます。また、アデノ随伴ウイルスそのものに対する免疫反応も生じます。遺伝子導入に関するリスクもあります、凝固因子合成上の課題だけではなく、あらたな製品の不確実な免疫原性の問題が存在します。
 
 ブラジル・カンピーナス大学のマルガレス・オゼロ氏は、治療選択と合併症について、血友病の治療は急速に進歩しているものの、これら治療薬の治験においては、合併症を有する患者は被験者から除かれている。合併症を有する患者は、血栓症のリスクや止血管理の複雑さが増すことになるので、リアル・ワールドデータを含む市販後調査が重要であると述べました。
 
 UKシェフィールド、血友病・血栓症センターのマイク・マクリス氏は、欧州遺伝性出血疾患の医薬品安全監視プログラムである、EUHASS(European Haemophilia Safety Surveillance)から学べることは何かという演題で報告しました。2022年12月31日現在で、EUHASSには26カ国、93のヘモフィリアセンターが参加しており、2008年以来以下のとおり報告されているとのことです。
 

 疾病名 

 患者数

 有害事象

 報告数

 

 

 急性アレルギー反応

 260

 血友病A 

 16437

 感染

 0

 血友病B

 3436 

 インヒビター発生

 733

 VWDType3

 578

 血栓症

 366

 先天性無フィ
 ブリノゲン血症

 87

 悪性腫瘍

 991

 グランツマン
 血小板無力症

 347

 死亡

 2158

 合計

 42679

 合計

 4508

 
 急性反応やアレルギー反応はまれではあるものの、起きることがあること、病原体の感染は報告されていないこと、インヒビターは血友病A PUPsSHLで26.9%、EHLで22.2%など一定割合で生じていること、血栓症はまれだが1000人年に1人報告されており、濃縮製剤投与後24時間以内に生じていることなどが判明したとのことです。肝疾患に関しては、すべての患者がC型肝炎治療を受けており、新たに肝癌の診断を受けた患者は195人、肝疾患による死亡例は218人報告されたとのことです。
 
 凝固異常症患者の加齢に関するセッションでは、男性・女性の患者の経験が語られました。
 ヤン・グランツェウィスキーさんは、70歳の患者ですが、HIV感染や関節症を抱えています。90年代に両膝を人工関節に2001年に左足首を固定、2019年に右足首を人工関節にし、右肘はどうしようか悩んでいるとのことでした。5歳までは全血輸血を10代は新鮮凍結血漿からクリオ、20歳ころから濃縮製剤の家庭内治療を行いました。人生を変える新しい治療は、皮下注射のエミシズマブでした。70歳になって、血管が深刻なダメージを被っています。血友病によるものか加齢によるものか分からない痛みもあります。抗ウイルス剤の腎臓に対する影響も心配です。高齢化することに対しては弱気になるわけではありませんが、HIVと血友病は二重に困難を感じます。いつもフラストレーションを感じています。

 

 
                     通訳はじめ大車輪だった小林まさみさん
                   右は研究者の本郷正武さん(桃山学院大学)
 
 レジストリについてのセッションでは、オーストラリア、中国の取り組みの他、WFHの女性レジストリが紹介されました。
 
 ワシントン凝固異常症センターのバーバラ・コンクルさんによると、血友病によって影響を受ける男性1人あたり、血友病によって影響を受ける女性は1.6人存在し、男性ほど重篤ではないものの、内30%の女性が血友病水準の凝固因子活性レベルであることが判っています。長い間血友病女性は認識されてきませんでした。2018年のジャーナルですら、ヘモフィリアのようにある種の凝固異常症は性特異的であり、男性のみに発症すると記述されています。なので、血友病女性のレジストリ登録は少なく、深刻な診断の遅れを招いています。WFHレジストリのグローバル・サーベイによると、血友病A、B以外の凝固異常症の男女比は概ね半々で、血友病Aの女性は3%、Bは5%、VWDで54%となっています。また、女性の診断率は、国のGNIに相関しており、高額な国は、低額な国の約2倍の診断率となっています。2022年のグローバル・サーベイによると保因者においてはさらに大きく6倍以上の差があります。理論的には血友病女性は117814人存在すると推定され、報告数は11700人に過ぎません。結論として、血友病女性の登録は未だ途上にあり、更なる取り組みが求められます。
 
 モナッシュ大学のヒュエン・トランさんは、オーストラリアのレジストリ(ABDR)の課題としては、現在構築中の日本のレジストリ同様、データの標準化と収集、範囲と目標定義、同意とプライバシー、患者の参加と関与、長期的持続可能性、データ分析と報告、相互運用性と統合、規制コンプライアンスなどの他、女性代表の確保などが挙げられていました。
 血液学・血液疾患病院研究所の中国のレジストリは2014年に創設され現在21561人の血友病患者が登録されているとのことです。重症の患者が少ない理由はやはり、治療環境が不十分な為だと思われます。最大課題としても、濃縮凝固因子製剤のコストの問題が示されていました。
 

 

 血友病A(n=17779)

 血友病B(n=3782)

 軽症

 13.8%

 17.5%

 中等症

 36.5%

 59.7%

 重症

 49.7%

 22.8%

 
 その他、欧州19カ国のHTCを網羅したPedNet レジストリ(2004〜)報告では、小児血友病患者におけるエミシズマブの治療効果の紹介や欧州のSafety Surveillance System(EUHASS 2008〜)に基づいたインヒビター発生率の製剤種類別比較や血栓症発生率、死因などが紹介されました。
 ブリュッセルのセドリック・ハーマン教授は、連合王国やフランスの登録患者データによると、成人女性と少女のヘモフィリア治療についてはまだ、患者登録と診断が十分なされていないものの、改善しつつあると述べ、凝固因子活性値は軽症範囲にあり、出血の病態に性差があると報告しました。また、男性患者と比して、EHLやエミシズマブの使用は限定的でNon Factor治療や遺伝子治療へのアクセスは皆無であるなど新しい治療へのアクセスは限られており、ほとんどの臨床試験からは除外されていると指摘し、成人女性と少女の為の特別な試験の必要性があるとのことでした。治療としては、凝固因子活性を正常化することが理想であると述べました。
 
 オックスフォード血友病・血栓症センターのニコラ・カリーさんは、初潮から閉経までの月経過多について報告しました。月経過多は、28日間に7日以上月経が続き、80ml以上の出血量(※日本の月経過多診断基準は140ml以上)と定義され、12歳から51歳までで仮に月経が4日間だとすると、2028日間=5.4年月経があることになるとのことです。今後は、生涯を通じて、個別的ケアが必要であり、専門家は革新的治療法開発に協力する必要があると述べました。
 
 ヴェールール・クリスチャン医大のアロック・シュリーヴァースタヴァさんは、インドにおけるケアの到達目標について報告しました。インドでは診断されている患者は1999年の12%から2018年時点で26%になっており、少しずつ改善してきている。血友病の治療は、大きく進歩し、エミシズマブの低用量治療など、新しい治療の導入に関する評価も厳密に行う必要があるものの、治療格差も向上しつつあり、医療全体のパラダイムの変化が必要であることが述べられました。
 
 マドリードにあるラパス病院の血液科部長のビクトル・ヒメネス・ユステさんは、血友病患者が遺伝子治療を行う理由として、凝固因子活性の向上が小さなものであっても、臨床上は大きな意味を持つこと、細かい凝固因子の調整が不要であることを挙げ、臨床試験では良好な結果が示されていると述べました(3年から4年の観察期間において、4年目の13.2単位/dl〜3年目で29.7単位/dl)。しかしながら、未知の部分も多数あり、継続的に評価が必要であるとのことでした。クリーブランドメディカルセンターのソーシャルワーカー、キャシー・ティグスさんは、患者の遺伝子治療に対する心構えに関する分析を総合的視点から、遺伝子治療に対する積極的な感情も否定的な感情も同等に扱う必要があるとともに、メリット、リスク、課題を十分に認識するために十分な時間をかけて治療に対する決断がなされる必要があると述べました。
 
 チェコ共和国、マサリク大学のヤン・ブラトニーさんは、定期補充療法が何を目標とすべきかについて以下のように発表しました。血友病治療の目的は、急性出血の治療から、重症血友病患者の出血の軽減(1IU/dl)そして出血そのものの予防、関節の機能維持(3-5IU/dl)へと進化してきました。それでは、出血ゼロとは何を意味しているのでしょうか、出血歴のない無症状の患者の半数以上にMRIや超音波検査での関節浸出液の貯留が認められていますし、出血歴の無い中等症の血友病患者の1/4に潜在性出血の兆候があることをMRIによって証明されています。また、軽症血友病患者の1/3に関節症が発症します。こうした潜在的出血は、小児血友病患者の関節機能や筋肉の発達に影響する可能性があります。また、潜在的出血は、関節の変形の原因となる炎症の原因になると考えられています。つまり、明確な出血の兆候がなくとも、患者は長期的関節損傷の原因となる微小出血を経験する可能性があるということです。
 それでは、定期補充はどのくらい必要でしょうか、トラフレベル1%でしょうか、15-20%でしょうか、それとも非血友病と言える40%以上でしょうか。こうしたことを考えるうえで、定期補充の積極的要素と否定的要素を秤にかける必要があります。もちろん、積極的要素は、関節を守り、患者のQOLが向上することですが、否定的な要素としては、補充回数が増加する負担、血栓症のリスク、コストなどが考えられます。
 18歳以上の重症血友病患者132人を対象としたバロクトコジーン ロクサパルボベクの第3相試験(GENEr8-1試験)によると、40IU/dl以上の凝固因子レベルを維持していた患者の比率は、1年で37.9%、2年で15.2%、3年で10.6%という結果でした。12歳以上の重症血友病患者159人を対象としたエファネコグアルファ50IU/kg/weekの第3相試験(XTEND-1試験)によると、40%を越える第VIII因子活性値は週の4日間であり、トラフレベルは15%でした。患者は、重症度や資格、経済力、居住地に影響されず、同世代の非血友病の人々と同じ生活を望んでいる訳ですが、現状では定期補充療養は条件によって、幅のある目標が設定されています。
 
 トロント大学のマヌエル・カルカオさんは、個別化医療におけるエミシズマブも含む定期補充療法の役割について、患者のライフスタイルや薬物動態を踏まえて、治療レジメンを選択することの意義を述べつつも、治療薬はいずれも高価であり、世界的にはほとんどの国において、定期補充療養が導入できていないか、最小限のものであることを考えると、むしろレジメンを規定する要素は患者の所属する社会において手ごろなものであるかという点が大きいと主張しました。


                                         芝生の上でひと息
 
 以上いくつかのセッションを足早に紹介しましたが、今回の世界会議において話題となったテーマは概ね、次のとおりです。
 
1.血友病・先天性凝固異常症治療のスタンダードは、定期補充療法であり、例
  え、エミシズマブを少量使用したレジメンであってもその有効性は確認できてい 
  ること。
2.国際血栓止血学会やWHOの考える最低限の治療基準は、オンデマンド治療が主
  流の時代のものであり、WFHとしては受け入れがたいこと。
3.保因者・女性の凝固異常症のケアについては、いまだ十分とは言えないこと。
4.先進国において、凝固因子製剤や非凝固因子製剤が潤沢に使用できるとしても、
  その治療の最終目標をどこに置くのかは、まだ議論があり、患者個別の事情によ
  って選択することが必要であること。
5.遺伝子治療に関しては、治療効果や副作用は長期の観察が必要であり、現時点で
  の知見に基づいて、十分なSDMの下で選択されるべきものであること。
治療戦略の選択は各国の経済的事情に応じて検討すべきであり、費用対効果の問
  題は今後とも、議論にならざるを得ない現実があること。
 
 これらは、日本国内においても患者会、専門家が議論を積み重ねる必要あります。また、女性の凝固異常に関する治療のあり方については、臨床症状の違いや企業にとっての市場の拡大という側面への目配りなども含め、エビデンスの蓄積はもとより、女性患者を含めた幅広い議論が必要だと思います。
 2026年はマレーシア、クアラルンプールでの開催です、アジアでの開催ですので、日本からもたくさん参加できることを期待します。