WFH世界大会・マドリード2024 報告
WFH(World Federation of Hemophilia ; 世界血友病連盟)は、血友病の国際的な患者団体です。私たち全国ネットワークは、2016年に日本を代表するNMO(National member organization)となり、情報交換、意見交換を続けています。WFHのミッションは、“Treatment for all(すべての患者に治療を) ”です。
WFHは2年に一度、世界大会を実施していますが、近年は、新型コロナ禍の影響により開催見送りもありました。昨2024年は4月21日~24日にかけてスペインのマドリードで無事に開催され、本ネットワークからも、松本理事長はじめ、複数の理事や会員が訪れました。大変遅くなってしまいましたが、参加報告をお届けします(写真は、参加者の皆さんから提供された物です。小さなコマは、拡大されます)。
鈴木浩幸(千葉ヘモフィリア友の会)
*なぜ参加したか
今回、ヘモフィリア友の会全国ネットワークより、費用を援助していただき参加することができました。
私は、22年前、第25回WFH世界大会(2002年5月19日から24日)に参加し、その当時は、世界から見て日本の全国的患者会はなく、模索状態だったと思います。
報告書によれば、ブライアン・オマホーニイさんの強い希望で、WFHに加盟していない日本が招待されていたと思います。
参加団体はネットワーク医療と人権、はばたき福祉事業団、北海道ヘモフィリア友の会、むさしの会、考える会などで、参加人数も数十人と多く、その様子は報告書としてまとめられていました。
私は千葉県の患者団体ではありましたが、ほぼ単独で参加(弁護士の方と参加申し込みを)しました。
弁護士の方、通訳の方には夜の食事等大変お世話になったと思います。
今回の参加の動機としては、自分でもよくわかりませんが、今現在の血友病に対する治療、製剤、血友病患者の社会生活等、WHFの全体的な空気感を感じたかったのと仕事も定年を過ぎ今一度参加してみたかった。ということです。
そんなタイミングで、全国ネットワークより参加の募集があったので応募した次第です。
*マドリードで感じたこと
私は、英語のヒアリングも話すことも出来ないので、通訳の方(小林まさみさん)が頼りでした。その中で献身的に体調の悪い中、通訳していただきました。
私以外の参加者は少なくとも英語が聞き取れる人たちで、医療関係者、患者団体代表者でした。
・各セッション参加について。思ったより組織的・計画的に各報告を取り入れることができなかったのではないか。
・各セッションの目星をつけ、事前に計画し情報収集ができていたのだろうかという疑問を感じました。
今回の参加者は私を含め6名(松本先生、花井さん、野村さん、吉本さん、阪口さん)で、滞在期間を通して親近感が湧き、それぞれの人の考えなどが少しわかりました。
・今回の世界大会に際して、若い患者が参加したいと、積極的に全国ネットワークにお願いし、費用を捻出参加したこと。
・血友病という病気を一般の人に知ってほしいと熱く語っていたこと。
・アジア圏の患者ミーティング(サノフィ主催)
アジア地区:韓国、台湾、香港、オーストラリア、ニュージーランドなどの報告会。
世界の国々、先進国、新興国などどのような治療、制度があるのか知りたかった。
実際言葉の壁があり直接は話せなかったが、ふっと近づく感じがする場面があった。
・NMOについて(活用)
以前に行ったNMOの教育と現在の教育は同じなのでしょうか。
また、現在日本ではどのような活用をしているのでしょうか。
小林まさみさんの夫であるデイヴ・ウィーズナーさんと。右は松本剛史理事長
*伝えたいこと
今どのように血友病治療が進んでいるのかを知り、日本の患者・医療関係者に知ってほしい。
かつて血友病を取り巻く数十年前の出来事は、その時々を経験した人には激動の時期があり、その後の生活環境の改善は目を見張るものがあります。
決してそれらはただ訪れたのではなく、言葉にはできないくらいの、出来事があったと思います。
とかく、治療、社会生活が安定してくると当たり前のようになりがちですが、決してそうではないと思います。
現在は、製剤の種類が覚えられないくらいに各社から発売されるようになっていますが、まだまだこれからも問題が訪れると思います。
これからの日本における経済縮小、医療費の増大に伴い製剤治療費の問題や、生産人口減少に伴う社会保障の問題、日本は現在人口減少という課題に直面していますがこの問題は社会保障に関する問題として、今まで当たり前と思って行っている医療が受けられなくなる可能性があると思います。
・患者、医療との継続的な体制の維持
現在の医療が継続的に行われるには、日本における医療体制を維持するために継続的な行政、医療者、患者との間に連絡できる組織が必要。(それにあたる組織は)一度完成した形は維持されるべきです。その方法を確立して、いつでも行動出来るよう体制をととのえておかなければならないと思います。
*最後に
参加者の皆さまには、空港との送迎、ホテルの予約、交通機関の期間限定フリーパス、観光、夜の食事、会場芝生での昼食など楽しく過ごすことが出来ました。
今回世界大会に参加してとてもよかったと思います。何よりも良かったのは若い人たちが積極的に大会に参加して、日本の血友病患者のために何をしたらよいか何をすべきか、世界の血友病患者と繋がりを持ち輪を広げるという気持ちがあるということが何よりも感心しました。このような若者がいることを、また出会えたことをとても嬉しく思い、それだけでも大会に参加したことは有意義でした。
また、ヘモフィリア友の会全国ネットワークという組織が、私の知る範囲ではあまり浸透していないと思います。問題は幾つかあると思いますが、血友病を正しく理解し、一人の患者として、話し合っていきたいと思います。
プラド美術館のゴヤ入口
吉本知史(万葉ヘモフィリア友の会、YHC=Youth Hemophilia Club)
・自己紹介
血友病A中等症 6歳の時に歯が抜けた際の出血により血友病罹患者であることが判明。今に至るまで治療を継続しておりその甲斐あって関節症など大きなトラブルなく経過しており、現在は小児科医師かつ全国ヘモフィリアネットワーク友の会(以下、全国ネット)理事、Youth Hemophilia Club副代表として活動中。
・はじめに
これまで私自身血友病に関する活動はそれほど行っておらず、患者会などに属して積極的に行うようになったのはここ数年のことである。特に生活に不自由せず、何となく生きてこられたからだ。しかし、他の血友病患者と接して、自分とは違う生き方・経過を経た人たちの話を聞いて血友病を取り巻く環境は決して平穏なものとは限らないことを知り、血友病に関する活動に参加しようと考えた。
今回のNMOとWFHへの参加も、全国ネットの他の理事より推薦を頂いた上で今後自分の活動に関する糧になると考えたからである。本参加にあたって推薦を頂いた理事の方々、長期間の休暇となるにも関わらず参加を承諾くださった職場の方々、その他多大なご支援くださった方々に深謝いたします。
・GNMOT(Global National Member Organization Training)
これまで血友病の活動はもとより、海外のイベントに参加することも初めてだった私には刺激の連続だった。
WFH役員のアサド・ハファル(Assad Haffar)医師と
スペイン到着初日。WFHからの連絡ですでに知っていたことだが宿泊するホテルは相部屋、見ず知らずの人間と共に過ごすことになっており、ホテルの部屋に着くと一人の男がベッドに横たわっている。人とのコミュニケーションに自信がない自分がどうしようかと考えていると、その人は起き上がり気さくに挨拶を交わしてくれた。どうやら韓国人らしい。これまでの自分の血友病に関する過去や職業、韓国の血友病治療の環境や酒が大好きな上司とのやり取りまで教えてくれた。ここで自分が感じたのは外国での事情を知ったことで、かえって自分の国の情勢について改めて知りたくなったということである。
明けてGNMOT 1日目。フォンビルブランド病の診断、組織のガバナンス、フィリピンのNMO、マレーシアのNMOの活動と初日から内容が盛りだくさんである。特にガバナンスについては組織を動かしていくための知識――意思決定、ガイドラインの策定、予算、外部組織との関係構築、役割分担など――が数多く盛り込まれており、YHCの運営にも生かせることが数多くあった。
ワークショップも開催された。架空の国のNMOが財政的な理由から存続することが困難となりそうな状況で、我々ならどういった方策を打ち出すか?というお題を数人のグループごとで行うというものだった。これまた初対面の外国人とグループを組んだのだが、どうしてもうまくいかない。英語でのコミュニケーションに不慣れな部分もあったが、目指すゴール地点やその下地となる価値観に違いがあるようである。同行して頂いていた翻訳家の方に後ほど聞くと、こういった政治的施策を打ち出す際の下地となる価値観が、現実的な部分を重視するか理想的なものを目指すかが国によって大きく違いがあるとのことだった。国を超えての意思決定の難しさを予想外の場面で味わったのである。
GNMOT2日目。スペインのハムを朝食で味わってスタート。この日もワークショップ。18歳以上の患者に治療薬が行き届くようにするには何をするか?というお題。資金調達、政府との折衝、厚労省との定例会議、治療に関する教育機関の設立など、やはり英語でのコミュニケーション(特に英語をネイティブとしている人たち相手では)内容を自分なりに飲み込んで理解して意見を出すことはなかなか難しく、内容が分かっても具体的に実行に移すにはどうすれば良いかを考えるにはさらに困難ではあるが、この日も今後の活動に必要な考えを得ることができた。この日はワークショップだけじゃなく、コーヒーブレイクで様々な国の参加者と打ち解けることができた。特にアジア圏の人たちはコミュニケーションもしやすく今でも友達である。
2日間のGNMOTを通して、自分に足りないものを強く見せつけられる格好となったが、それと同じぐらい得られるものがあり非常に充実したものだった。
・WFH
4日間の学会。医師として勉強になる内容が多くあった。血友病に対する治療法の拡大、既存の治療薬による治療成績の向上、関節症治療の今後、関節エコーワークショップ、痛みの評価など血栓・止血領域に関わる内容が盛りだくさん。専門医ですらない私には消化しきれないほどの物量だったがさらに勉強したいと思わせるものが数多くあったように思う。
・まとめ
血友病に関する活動を、これまであまりやっていなかった自分にとってすぐには消化しきれないほどの内容の多さではあったが、生かせるものは多く今後の活動をより進めていける推進剤となったのは間違いないだろう。
来日したこともあるモンゴルのエンクスルド・テルビッシュ(Enkhsuld Terbish)さんと
阪口直嗣(大阪ヘモフィリア友の会、YHC=Youth Hemophilia Club)
今回スペイン開催でのWFHに参加させていただきました。
そこでは過去2018年に出会った仲間とも改めて再会もでき台湾、韓国、ニュージーランドと行動で話す機会もいただき世界との繋がりも作れたことが非常に良かった。
今回のWFHではヘムライブラのことが多く取り上げられていた。
ヘムライブラは今までにない血友病にとっては活気的な治療方法である。
従来の凝固因子製剤は出血を予期して出血を防ぐ目的で欠損している凝固因子を定期的に投与する必要あった。しかし、現在では血友病の人が活発的な生活を送ることを可能にしながら出血を予防し効果的でかつ安全に予防する止血剤、定期的に投与していくことが重要になると最近ではなっている。そんな中、先進国以外の各国と比べると予防投与としてできているのは少なく、インドでは5%未満である。予防という意味では、まだ根付いていない状況である。資金が限られている地域との格差は多く、支援が必要な国は多くある現状である。血友病Bにおいては半減期延長型製剤の効果がよく、この状況は続くと考えられる。そのなかでもインヒビターのある血友病B患者については抗凝固物質を抑制する再バランス療法が期待されている。
ただ、それより先に2年前より出てきた、血友病A、B共に遺伝子治療が多く取り上げられている。日本では承認はされてはいないが海外では承認されている国も見られている。一度行うと注射を続ける必要もなくなれば、やりたいことを我慢する必要もなくなるなど私たちにとって非常に夢が詰まった治療法で日々の生活が明るくなるものであると改めて感じた。しかし、その中でも3つ課題がありました。
新しい治療法であるため治療後何十年も経ってからも薬効が続くかは不明であること。現在、確認されているだけで5年間は50%を保つことはできていること。現状では、20年続くかは不明。2つ目に挙げられていたのが血友病Aの場合は5年も経つと徐々に凝固因子活性が下がってしまうと報告されていました。以前のような凝固因子製剤の定期投与は不要ですが、野球、サッカーなど激しいスポーツをする上では皮下注射などの抗体製剤と組み合わせる必要があるとも言われていた。3つ目としては遺伝子治療とは生涯で一度しか受けることはできない。身体に抗体ができてしまうため2度目は受けることができないことが挙げられている。
実際に、これが近い将来使用可能になれば多くの当事者が救われるだろうと感じた。
しかし、日本でも血友病Aにとってはヘムライブラの登場によってインヒビターのある患者の治療や、小児患者の治療が劇的に変わりました。使用できる年齢層にも幅が広く、特に小児期には良く使用されている。活動強度の高い運動する上では活性値のコントロールが困難になることもある。運動強度が上がることによって製剤の頻度や投与量を変えていかないといけないことも挙げられていた。その上で、関節内出血を起こさないためにどうすべきかを医療者側は考える必要がある。当事者の思いを受け入れつつ、今後の将来を見据えて考え関節症のリスクを減らすための治療を考えていく必要がある。
インド血友病連盟のジャグディシュ・シャルマ(Jagdish Sharma)副会長と
当事者側は運動を始める前は主治医と相談することが大切になる。相談をしていなければ今の治療を続けることで出血を防ぐことができるかはわからない状態にある。何か新しいことを始めたい。運動をしたいなどの思いがあるなら相談して治療方針を相談して決めていくことが重要である。しかし、日本では診察時間を長く時間を取ることがなかなかできない現状がある。その中で、看護師の立場が大事になってくると私は感じました。当事者の思いを引き出し相談し、思い描いているものに近づけていくための支援、橋渡しも必要になると考えられる。
私自身が看護師という立場でもあるため、各患者会との交流やイベントを通して当事者、家族が抱えている問題を聞き出し、それぞれに合ったことを提言していけたらと思いました。YHC(Youth Hemophilia Club) としても、若い世代に日本での恵まれた環境の中で自分自身に合った製剤を提供してもらえるように思いを伝えることが必要になることを提言しながら各患者会と協力して地域格差を減らせるように活動していくことが大切である。
最後に、今回のWFHでは各国の当事者の若い世代との交流を深める場が設けられていた。
日本でも血友病へ関わる若い世代が少なく人数も限られている現状である。その中で、海外の当事者と関係性を繋ぐことができたのは大きな収穫であったと言える。
様々な視点での考え方、情報収集の仕方など多くの面で刺激的になった。今後も各国の同世代と繋がりを継続してグローバルな視点から血友病の課題と向き合っていきたいと考えさせられる機会になったと感じた。
ロートレックに彩られたレストラン
花井十伍(MARS=ネットワーク医療と人権)

オープニングでは、ホスト国スペイン患者会の会長であるダニエル-アニバル・ガルシア・ダイゴさんが、スペインでは25年前に大会が開催されたが、今回、会長として大会ホストとなることができたことを嬉しく思うと挨拶し、WFHの大会の多様であることが紹介されました。WFH会長のシーザー・ガリドさんも、60周年を迎えるWFHには、147のNMOが参加しており世界の多様な取り組みを学んで帰ることができることを強調しました。
1.病原体を除去しないクリオプレシピテートを中核リストから完全に除外するこ
と。
2.病原体を除外したクリオプレシピテートを補間リストに移すこと。
対策については、2025年の次期EML改正を待たずに早急な対策を要望する。
インディアナ大学のラデク・カツマレク氏からは遺伝子治療に於いてのベクターと遺伝子導入のリスクについて発表がありました。アデノ随伴ウイルスを用いた血友病遺伝子治療においては、体重1kgあたり1兆個から10兆個のベクター・ゲノムを投与しますが、ほぼ全ての製品で肝臓の酵素値に異常が認められます。また、アデノ随伴ウイルスそのものに対する免疫反応も生じます。遺伝子導入に関するリスクもあります、凝固因子合成上の課題だけではなく、あらたな製品の不確実な免疫原性の問題が存在します。
UKシェフィールド、血友病・血栓症センターのマイク・マクリス氏は、欧州遺伝性出血疾患の医薬品安全監視プログラムである、EUHASS(European Haemophilia Safety Surveillance)から学べることは何かという演題で報告しました。2022年12月31日現在で、EUHASSには26カ国、93のヘモフィリアセンターが参加しており、2008年以来以下のとおり報告されているとのことです。
疾病名 |
患者数 |
有害事象 |
報告数 |
|
|
急性アレルギー反応 |
260 |
血友病A |
16437 |
感染 |
0 |
血友病B |
3436 |
インヒビター発生 |
733 |
VWDType3 |
578 |
血栓症 |
366 |
先天性無フィ |
87 |
悪性腫瘍 |
991 |
グランツマン |
347 |
死亡 |
2158 |
合計 |
42679 |
合計 |
4508 |




|
血友病A(n=17779) |
血友病B(n=3782) |
軽症 |
13.8% |
17.5% |
中等症 |
36.5% |
59.7% |
重症 |
49.7% |
22.8% |

芝生の上でひと息